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第5回労災保険制度の在り方に関する研究会 議事録
1.日時
令和7年4月4日(金) 10時00分~11時53分
2.場所
AP虎ノ門 ルームA(※一部オンライン)
(東京都港区西新橋1-6-15 NS虎ノ門ビル 11階)
(東京都港区西新橋1-6-15 NS虎ノ門ビル 11階)
3.出席委員
- 京都大学大学院人間・環境学研究科教授 小畑 史子
- 東京大学大学院法学政治学研究科教授 笠木 映里
- 明治大学法学部教授 小西 康之
- 同志社大学法学部教授 坂井 岳夫
- 法政大学経済学部教授 酒井 正
- 大阪大学大学院高等司法研究科准教授 地神 亮祐
- 名古屋大学大学院法学研究科教授 中野 妙子
- 亜細亜大学法学部教授 中益 陽子
- 大阪大学大学院高等司法研究科教授 水島 郁子
4.議題
労災保険制度の在り方について(徴収関係等)
○小畑座長 ただいまから「第5回労災保険制度の在り方に関する研究会」を開催いたします。委員の皆様方におかれましては、御多忙のところお集まりいただき、誠にありがとうございます。
本日の研究会につきましては、小西委員及び中野委員がオンラインで御参加です。また、事務局に人事異動があると聞いておりますので、御紹介をよろしくお願いいたします。
○労災管理課長 それでは、事務局より4月1日付けの人事異動を御紹介いたします。補償課長に着任いたしました黒部でございます。
○補償課長 黒部でございます。よろしくお願いします。
○労災管理課長 人事異動は、以上でございます。
○小畑座長 ありがとうございました。カメラ撮りにつきましては、ここまでとさせていただきます。
それでは、本日の議事に入りたいと思います。本日の議題は「労災保険制度の在り方について(徴収関係等)」です。本日の議題の1つ目、メリット制に入りたいと思います。まずは、事務局から資料の御説明をお願いいたします。
○労災管理課長補佐(企画担当) 企画班長の狩集です。御説明いたします。資料1を御覧ください。こちらは、昨年12月に開催しました第1回研究会の中で、皆様からメリット制に関して頂いた御意見を事務局で取りまとめているものです。
資料2を御覧ください。2ページです。メリット制の趣旨・目的です。メリット制については、事業主の災害実績を評価することで、保険料の割引又は割増しを行うということで、事業主間の保険料負担の公平性を確保する、また、事業主の災害防止努力の促進を図るといったことが目的です。メリット制が導入されました当初、これは昭和26年ですが、この当時は継続事業に限定されており、建設と林業については対象となっていなかったところです。しかしながら、その後、これらの産業についても災害が多発しているといった事情も踏まえ、昭和30年、40年にそれぞれ適用対象となっております。現在では、全ての業種にメリット制が適用されているところです。こうした適用の拡大に関する経緯に関しては、こちらの参考部分に記載しております。
3ページ、4ページです。こちらのメリット制が適用されている事業場で、どの程度の災害が起こった場合に、どの程度労災保険料に影響を与えるのかについて、モデルケースをお示ししているものです。実際に保険料に与える影響は、この算定期間の保険料や被災された労働者の賃金、傷病の程度により変動してまいりますので、一概に申し上げることはできませんが、3ページでは金属精錬業、こちらは比較的災害発生率が高い業種、4ページでは宿泊業、こちらは災害発生率が比較的低い業種といったことで、それぞれ想定される、よく起きる災害について仮定した上で計算を行っているものです。なお、現行の業種ごとの料率についてですが、こちらは12ページに参考として一覧化しております。
戻って、5ページを御覧ください。令和5年度にメリット制が適用された事業場は約14万7千事業場ありますが、このうち、8割が保険率の引下げの対象となっており、全体の半数近くが引下げの最大値であるマイナス40%となっております。
6ページです。メリット制が適用されている事業場ですが、こちらの事業場ベースで見てまいりますと、左側の円グラフですが、約4%の事業場をカバーしているということです。この事業場の数で見ていきますと、少なく見えるという向きもありますが、右隣の労働者に置き換えた円グラフですが、この適用事業場で働いている労働者の方で見ると、全ての労働者の約6割がカバーをされているところです。
7ページです。こちらは、令和4年度と令和5年度において、いずれもメリットを適用されていた事業場において、メリット増減率がどのように推移したかを集計したものです。結果については左下の表に記載しておりますが、変化がないものが2分の1強、上がったもの、下がったものがそれぞれ4分の1弱となっており、継続してメリットが適用されている事業場においては、メリットの増減は必ずしも固定しているわけではなく、ある程度の入れ替わりがあるというところです。
8ページから12ページにかけては、第1回研究会でお示しをした資料をもう一度再掲しているようなものですので、御参考です。詳細な説明は省略いたします。
13ページは、論点案です。論点①です。メリット制に関しましては、冒頭申し上げましたとおり、労災保険法の制定間もない時期から実施をされております。一方で、我が国の産業構造が変化し、作業関連疾患に係る労災認定も増加しているという中で、適用対象は妥当か、今日でも事業主の災害防止を促す効果があるのかといった点について御議論いただきたいと考えております。
論点②です。精神障害による労災認定の増加、あるいは就労現場において高齢者や外国人の労働者の割合が高まっているということも踏まえ、一定の脆弱性を有する労働者、災害リスクの高い労働者による事故については、メリットの算定基礎の対象外とするといったことの妥当性について御議論いただきたいと考えております。なお、資料が大部にわたりますので、説明は一旦論点①の部分で区切らせていただきたいと思います。
15ページを御覧ください。メリット制度の効果をどのように評価するかです。今回、メリットの適用事業場の被災者数の増減率に着目し、メリット制度の災害防止効果について検証を試みております。検証方法として、まず前提ですが、保険料規模の小さい事業場ですと、ささいな事故でも収支率に大きなインパクトをもたらしてしまいますので、事業主の方の災害防止努力を評価する上では、災害がある程度の頻度をもって発生することが必要になってまいります。すなわち、労働者の規模がある程度大きいことが前提となってまいりますので、今回の検証に当たっては、一定以上の労働者数が見込まれます建設業、製造業といった6つの業種を選定しております。これら6つの業種につきまして、メリットの適用、非適用にかかわらない全ての事業場と、メリット適用事業場とで、平成30年度から令和4年度までにかけての被災者数の前年度からの増減率を比較しております。これは、適用事業場における増減率が、全ての事業場の増減率よりも低いということであれば、災害防止効果が発揮されていると考えられるというものです。
16ページを御覧ください。適用事業場における増減率に関しまして、①~⑧の区分けを行っております。①~⑧ですが、こちらの労災保険の収支率が比較的高い、すなわち労災が比較的多い事業場が①~④です。⑤~⑧については、収支率が比較的低い、すなわち労災が比較的少ない事業場ということで区分けをしているものです。
17ページは、検証結果です。端的に要点を申し上げますと、メリットがプラスで適用された事業場については、全ての事業場よりも増減率がおおむね低いという結果となっており、一定の災害防止効果が働いたといったことがうかがえます。メリットがマイナスで適用されている事業場ですが、こちらは全ての事業場よりも増減率が低い場合と高い場合が同じぐらい混在しておりますので、増減率だけに着目して災害防止効果を直ちに判断することは難しいところです。
その上で、18ページを御覧ください。このマイナスでメリットが適用された事業場についてですが、過去の保険収支が良好であったということは、マイナスのメリットが適用された時点で、既に災害防止効果が発揮されているとも考えられます。また、18ページの真ん中の2つの表を御覧いただきますと、令和4年度のメリット適用事業場について、前年度であります令和3年度の被災者数が0又は5人未満の事業場の割合が、メリットが適用されています全ての事業場のそれよりも高いということになっており、そもそも災害防止効果がこれ以上出ない又は出すことが難しいという状況になったと考えられます。また、この表は令和4年度の適用事業場を例に取っておりますが、平成30年度から令和3年度までにかけても、同様の傾向が見て取れるというものです。
16ページから17ページにかけまして、検証方法について、より子細に説明しておりますが、細目的な内容になりますので、こちらでは省略いたします。
19ページを御覧ください。こちらは、先ほどの資料の5ページの再掲です。この資料を見ていただきますと、現在、労災保険率の引下げの対象となっている事業場は約8割で、全体の半数近くがマイナスの最大値の適用を受けています。これは、メリット制による災害防止効果が機能してきたことで、労災の発生が抑制されてきたということの帰結ではないかと考えられます。
20ページです。こちらも、先ほどの6ページの資料の再掲ですが、労働者規模で見てまいりますと、6割程度の労働者の方がカバーされているということになってまいります。また、保険料で考えていくときに、賃金総額といったもので見ていきますので、この青い部分は、赤い部分よりも、より大きくなってくることが考えられます。言わば、このメリット制が費用対効果に優れている仕組みということが言えるのではないかと考えております。
21ページです。メリット制の適用により、令和5年度においては割引額が引上額を約1,570億円上回っております。この差額分を見越した上で、保険率が設定されてまいります。論点①については以上です。
なお、補足ですが、委員の皆様の机上に、メリット制に関しまして様々な団体から御意見を頂いているところですので、御参考として配布させていただいています。以上でございます。
○小畑座長 ありがとうございました。それでは資料2、13ページ目の論点①メリット制の意義・効果について、意見をお伺いしたいと思います。御発言の際は、会場の委員におかれましては挙手を、オンラインから参加の委員におかれましてはチャットのメッセージから「発言希望」と入力いただくか、挙手ボタンで御連絡いただきますようお願いいたします。それでは御意見、いかがでしょうか。酒井委員、お願いいたします。
○酒井委員 論点①に関しては、実証結果がメインになるかと思いますので、始めに発言させていただきたいと思います。主に資料2の17ページがメインの検証結果なのかなと思う次第ですが、一般論として、現代の実証分析では、ある措置や政策などの対象になった主体に生じた変化が、純粋に、その措置や政策の効果によるものかを判断するために、平均的に似た条件の主体と比較することを重んじます。その意味で、今回示されたデータというのは、メリット制による保険料率の上昇が労災抑止に一定程度の効果があることを可視化できているのではないかなと思います。もちろん、そこには厳密に言えば更に精緻な統計的検定が必要ですし、そもそも、メリット制による保険料率の増減が必ずしも外生的ではない、すなわちランダムではないという意味で、経済学でいうところの内生性の問題の懸念もあり、まだツッコミどころはあるのですけれども、一定程度は可視化できているのではないかなと考えております。
1点、言及しておくと、こういったメリット制の効果に関する検証方法としては、ほかにもいろいろあるはずだと思われる方もいるかと思いますし、私自身もそのように考えて、リサーチデザインに関して事前に事務局のほうから相談を受けた際にも、ほかの方法もあるのではないかということを提案させていただきました。そして、それらの方法が可能かどうかを検討していただいたのですが、やはり、労災のデータというのはすごく特殊な面があり、データの構造上、難しいということがあり、唯一、残った検証方法がこの方法という感じです。
1つ留保を付けさせていただくとすると、ここで行われている効果検証が示しているのは、例えば、メリット制が労災かくしを誘発しているのではないかといった主張に対して何らかのエビデンスを示すものではないということです。以上が、この検証結果全体に関する私の見立てになります。
1点だけ、細かいところを述べさせていただきたいのですが、全体としてメリット制に効果があるということは分かったのですが、こういった統計データにはいろいろな側面があるかなという気がしております。それで、ちょっと1点だけ感想めいたことを述べさせていただきたいのですが、資料2の7ページ、メリット増減率の遷移ということで、前年からその次の年にかけてのメリット増減率を示された表があります。私の認識違いかもしれないのですが、先ほどの御説明だと、メリット増減率は必ずしも固定化されていないということだったのですが、例えば、前年プラス40%の事業所のうち、翌年もプラス40%である事業場は、全体の3分の2あるのです。これが、例えばプラス30%でも4割強あるというような形で、結構、メリット増減率が変わらない事業場が多い、特にプラスで適用されていても変わらない事業場が多いなという印象を持ちました。
そうすると、これらの事業所というのは、一体何をしているのだろうかという思いもあります。なかには、労災抑止がなかなかうまくできないような環境にあるとか、安全衛生に投資するお金がないといった理由も考えられるかと思いますので、長期的には、こういったメリット増減率、特にプラスで固定化されているような事業場に関する分析が必要になってくるのではないかと感じました。すみません、長くなってしまいましたが、私の発言は以上です。
○小畑座長 どうもありがとうございました。ほかは、いかがでしょうか。中益委員、お願いいたします。
○中益委員 中益です。今回、メリット制について災害防止効果があるのかどうかという論点が立てられましたが、労災保険制度は無過失責任主義を採りますので、業務災害は、使用者に過失があり、災害防止行動を取りやすいものと、使用者が無過失で、直接的な災害防止行動を取りにくいものを含むことを考える必要があるかと思っております。
このうち、過失によって発生するものは、御説明いただいたように、メリット制に一応の予防効果があるとのデータが出たことから見ても、メリット制を維持する必要があろうかと思います。というのも、保険にはモラルハザードが伴いますので、メリット制なしに、保険の仕組みを通じて業務災害に関する費用負担を分散し得ることは、業務災害発生予防に対する事業主の意識を低下させるおそれがあるからです。特に、労働契約では生命や身体の危険を労働者が専ら引き受けますので、さらに、その災害補償のコストを保険によって分散できるとなると、同業他社よりも労働者に必死に働かせたり、つまり過重労働をさせたり、あるいは安全衛生についてコストを掛けずに事業運営するのがライバル企業に差を付ける企業経営だという事業主が出現しないとは限らないように思います。
他方で、こうした直接的な業務災害防止効果を一旦置いても、やはりメリット制の効用は否定されないように思います。先ほど申しましたように、そもそも労災保険制度は無過失責任に基づいていますから、事業主が予防しようがない業務災害も含むわけです。ただ、ここで問題となるのが、労働者の生命や身体という重大な法益であることに鑑みると、個別の事業主が予防可能かどうかにかかわらず、同種事業よりも業務災害の発生が著しい事業は、そうでない事業よりも高コストで、すなわち、競争の観点からは不利な事業運営を強いられてしかるべきとも考えられます。要するに、メリット制を通じて市場原理にさらされる形で、事業の妥当性が試されるという形になっていると思われますが、これもまたメリット制の機能の1つだろうと考えます。したがって、直接的な災害防止効果にとどまらず、もう少し広い視野でメリット制の意義を考えることもできるのではないかと考えております。以上です。
○小畑座長 ありがとうございました。ほかは、いかがでしょうか。笠木委員、お願いいたします。
○笠木委員 メリット制の適用の実態や効果について資料をお示しいただきまして、ありがとうございました。全体としてメリット制にある程度の予防効果があるという御趣旨の説明だったかと思われ、酒井委員からも補足いただきまして、特に、プラスのメリット制が適用された事業場についての効果がある程度明らかに示されているというところは重要かと思いました。また、適用対象の数が、事業場の数ではごく一部なのですが、労働者数との関係では、より広い範囲をカバーしているといった御指摘も、本日、御説明いただいた中では重要な点かと思いました。
他方で、次の論点②とも関わるところで、それから、既に出てきている他の委員の御発言にもあったことを含みますが、以下の4点について留保が必要であると考えます。
まず、1点目は、現状で8割の事業場にマイナスのメリット制が適用されていて、これらの事業場については、メリット制の効果はないとは言えないということですが、必ずしも、メリット制があることによって現状が維持されているといった関係は示されていないように感じられたところです。
2点目は、本日お示しいただいたデータの内容をもう少しミクロに見ていきますと、メリット制が有し得る効果は、業種や疾病の類型、疾病の場合には疾病の類型あるいは事業場の規模によって多様とも考えられることです。事業場の規模という面では、今回の調査で、小規模な事業場が推計から除かれたとのことですが、そういったところからもまさに示されているかと思います。また、災害予防の意識や努力が効果を上げやすいケースと、そうではないケースがあって、メリット制が効果を持ちやすい業種や災害類型があるものと思われます。
3点目は、2点目と関連しますが、使用者が予防の努力をしていても避けられない労災は一定数存在すると考えられ、予防の努力にもかかわらず、結果として重要な労災が発生した事業場には大きな保険料負担が発生することとなり、こうしたメリット制の適用は、使用者から見て不公平感が強いものである上、使用者の予防の努力には影響を及ぼさないと考えられることです。
4点目、先ほどの酒井委員からの御発言のとおり、メリット制は労災かくしの誘因ともなり得るとの主張が実務家などからしばしば行われているところでありますが、こういった弊害については、データで確認することは極めて難しいと思われます。そのため、政策決定において、先ほどの事務局の御説明の中では、費用対効果の評価という観点が示されていましたが、そういった評価の中で十分に考慮されにくい懸念があるということです。このような、メリット制に伴う、データでは示されにくい事実上の負担というか、被災労働者や遺族にとってのネガティブな弊害という観点には、後のほうで議論をする使用者による不服申立てとの関係でも配慮が必要と考えますが、この点については、また後半で申し上げたいと思います。以上です。
○小畑座長 ありがとうございました。中野委員、お願いいたします。
○中野委員 第1回の研究会の際に、メリット制が適用されることによって、具体的にどの程度保険料負担が変化するのか例を示してほしいとお願いし、今回の資料2でお答えいただいたことに、まずお礼を申し上げます。
企業の規模にもよりますが、事故が発生しなかった場合には、保険料が大きく減額されるのに対し、一たび事故が発生すると、保険料が大きく増大するということが理解できました。特に死亡事故や長期の疾病は、保険料に対する影響が大きく、このことはプラスにもマイナスにも、マイナスというのは、今も話に出ておりました労災かくしなどの問題が起こり得るということですが、事業主の行動に影響を与えるだろうという印象は受けました。ただ、メリット制のプラスの効果、すなわち、事業主が労災防止に積極的に取り組むインセンティブとなるのか、また、それによって、実際にどの程度、労働災害の発生が抑制されているのかということは、今回、事務局もいろいろと工夫してデータを出してくださって、先ほど、酒井委員からも補足で説明をしていただいたところですが、やはり、評価することがなかなか難しいように思われました。
まず、適用対象に関しては、資料の2ページでは、メリット制の趣旨の1つとして、事業主間の負担の具体的公平を図ることが挙げられております。しかし、先ほど、笠木委員も御指摘されましたが、資料の6ページを見ると、事業場の数ではメリット制を適用されている事業場は4%にすぎず、労働者数で見ても過半数を僅かに上回るにすぎません。
59%の労働者がメリット制の適用下にあることを多いと評価するか、少ないと捉えるかは、これは評価の問題であろうと思われます。事業主間の負担の公平化を徹底するのであれば、メリット制の適用対象を全ての事業場に拡大するということも考えられると思いますが、現行法が一定規模以上の継続事業や有期事業に適用対象を限定しているのは、やはり、小規模の事業主はメリット制による保険料の増減の影響、特に保険料の増額時の負担に耐えられないという理由なのだろうかと推測いたします。
また、同じく資料の2ページでは、メリット制の趣旨のもう1つとして、事業主の災害防止努力の促進が挙げられています。この点については、先ほども述べたように、やはり、メリット制が実際にどの程度の災害防止効果をもたらしているのかを評価することが難しいように思われました。資料の15ページ以降でお示しいただいたデータを見ると、適用事業場の約半数は、もともとマイナス40%の保険料を適用されており、被災者がおらず、それ以上災害防止効果を出すことができないということです。このことをどう評価するかですが、過去の、これまでのメリット制には確かに災害防止の意味があったかもしれないが、企業における災害防止努力は既に頂点に達していて、今日においては、メリット制の役割は既に終了していると評価することもできるのではないか。つまり、もしメリット制をなくしたとしても、これらの現在マイナス40%の保険料を適用されている企業が、急に災害防止努力を怠って、労働災害が増加するというようなことは起こらないのではないかとも思われます。
資料2ページの参考という部分では、有期事業についてメリット制を創設した際に、継続事業についてメリット制の効用が大きかったことが背景として述べられています。当時、どのような検証がなされてこのような評価をしていたのかは分かりませんが、いわゆる事故性の災害が中心であった時代には、事業主に災害防止に取り組む経済的インセンティブを与える意義は大きかったと思われ、事業主も災害防止に取り組みやすかっただろうと思われます。しかし、この後の論点にも関わりますが、今日、問題となっている脳・心臓疾患や精神障害は、労働者側の要因も発症に関わり、事業主の努力による発生防止には限界があります。そのような職業病にメリット制を適用することには疑問もあり得るところで、本日の机上配布で頂いているように、実務側からは、いろいろと反対や懸念も示されているところです。
以上のように考えると、メリット制は今日においてはその役割を終えたものとして廃止をし、労働災害の発生防止については、保険の外の事業、社会復帰促進等事業や労働安全衛生に係る監督行政の徹底によって確保するというのも1つの考え方ではないかと思います。私からは以上です。
○小畑座長 ありがとうございました。ほかは、いかがでしょうか。坂井先生、お願いいたします。
○坂井委員 発言をさせてもらいます。今日、配布、説明していただいた資料のうち、例えば資料の5ページで紹介されているメリット制の適用事業場におけるメリット増減率の状況を見ていると、同種の事業に属する各種の事業であっても、業務災害の発生状況は多様だということが、まず理解できます。また、資料の7ページで紹介されているメリット増減率の遷移を見てみると、この発生状況のばらつきが、年度ごとの偶然の変動とは言いきれず、個々の事業に固有の事情を一定程度反映したものなのであろうということも見受けられます。
このような実情を前提とすると、業種別の労災保険率のみによって、要するに、メリット制を適用せずに業種別の労災保険率のみによって保険料を算定するという場合には、同一の業種の中で、業務災害のリスクが低い事業主から、これが高い事業主への再分配、すなわち、経済的な利益の移転が生じることになるのだろうと思います。これは先ほどの中益委員の御指摘と重なる認識かと思います。このことをどう評価するかを考えてみますと、まず、労災保険に内在する論理からは、このような再分配は正当化されないと考えられますし、また、労働政策とは別の、例えば産業政策の観点から考えてみても、現状では、このような再分配は要請されていないように思われます。
そうすると、この資料の中でも説明していただいているメリット制の2つの趣旨のうち、個々の事業主の負担の具体的公平性を図ることとの関係では、メリット制が果たす役割は、いまだ軽視するべきではないと思います。
それとの関係で、事業所数でいったら適用事業所は限られているという問題意識もここまで示されてきたところですが、事業主間の公平の観点から、メリット制が果たす役割は小さくないという立場からは、比較的、規模の小さい事業であっても、取り分け安全衛生や労災予防に関する取組を積極的にしているものについては、メリット制の恩恵を享受し得る仕組みがあってもよいという見解も出てき得るところかと思います。もちろん、余りに小規模な事業にメリット制を適用してしまうと、偶発的な要素によって、労災保険率の変動が生じてしまうという問題も理解できるのですが、例えば、事業規模に関する現行の要件を下回る事業についても、安全衛生、労災予防の取組に関する所定の要件を充足する場合、しっかりした取組をしている場合は、当該事業での労働災害の発生状況は、偶発的な事情のみによるのではなく、そういった労災予防、安全衛生の取組の成果を反映したものと位置付けて、メリット制の適用を認めるということも検討に値するのではないかと考えているところです。私からは以上です。
○小畑座長 ありがとうございました。水島委員、お願いいたします。
○水島委員 水島です。先生方の御発言と重なるところが多いですが、私からも一言述べさせていただきます。まず、この研究会でも、メリット制の検証がこれまでなされていない、あるいは効果に懐疑的な御意見がありましたけれども、今回、このように検証し、御説明を頂きありがとうございました。
メリット制の目的としては、事業主の負担の公平性あるいは事業主の災害防止の努力の推進があると御説明にもありましたが、災害防止努力という目的は一定程度達成され、そして、事業主の負担の具体的公平性も、結果として一定程度達成されているように思いました。
適用対象の合理性については、これまでの委員の御発言にもありましたように、多様な見方があると思いますけれども、私としては、小規模事業場に適用することによる個々の事業への影響の大きさを考えると、現行の適用対象には一定の合理性があり、見直しを必要とするものではないと考えます。現行の労災保険制度の中で、いかに負担の具体的公平性を図るかというところで、バランスの取れた1つの仕組みを提示できているのではないかと思います。
中益委員、笠木委員からも御発言がありましたが、メリット制が災害防止に効果があるのか、あるいは災害防止努力という目的について、疾病等の種類が変わってきたことを踏まえると、私も、非常に悩ましく思っております。資料の3、4ページに具体的事例を挙げて説明いただいていますが、例えば脳疾患を発症した場合に、入院、休業の期間が非常に長くなると給付が非常に大きなものになることがわかりました。こうした脳・心疾患事例は、メリット制を創設した当初に想定されていなかったと思いますし、コンメンタール等で説明される作業工程、機械設備あるいは作業環境の良否といったものとも直接関連するものでないように思われ、どう考えるべきかを悩んでおりました。
無過失のものも含めて市場原理を通じて事業の妥当性を図るといった御趣旨の中益委員の御発言は、なるほどと思いました。災害防止責任というと、使用者の過失が介在するものと使用者が防ぎようのないものとを分別したくなりますが、実際に業務上とされたものを見ても、使用者の過失があったかではっきりと分かれるものではありません。もちろん、明らかに使用者に過失があるものもありますが、事業場内で業務に際して生じた災害から、使用者が完全に無過失であるものを切り出すことは、労災保険法上、必要ないですし、すべきでないと考えます。
このように考えると、メリット制で、災害防止努力という目的が達成されているか、あるいは災害防止に効果があるのかといったときに、メリット制を維持するために必要かという意味で、効果を測るべきとは思いますが、メリット制における災害防止効果を追求しすぎると、議論が混乱するのではないかと思います。メリット制に一定の災害防止効果が認められればよくて、また、先ほど中野委員からもお話がありましたように、労災保険のメリット制のみで災害防止を達成できるものではありませんので、メリット制を維持するのに妥当な程度で効果があることを言えればいいのかなと思っております。以上です。
○小畑座長 ありがとうございました。ほかは、いかがでしょうか。地神委員、お願いいたします。
○地神委員 私自身は、今までの話を伺っておりまして、やはりメリット制自体は維持しつつ、一定の調整が必要だろうと思っております。維持すべきと考える理由については、一番最初に中益委員から私の考えとほぼほぼ重複する御発言がありましたので、省略をさせていただきます。
一方で、調整が必要と考える部分ですが、お示しいただいた論点に直接的にお答えするものではないかもしれないのですが触れさせていただきます。増減率40%の部分について、不断に見直しが必要なのではないかということを指摘させていただきたいと思います。理由の1つは、これまでにも議論があったように、災害発生の防止の努力というものに、ある程度、限界があるのではないかという点です。産業保健の進展や安衛法、安全衛生規則などが充実することにより、現実に労災事故や給付というものは年々減少しているところであり、事業主の努力によって災害発生を防止できる範囲が狭まっている。これは御指摘のとおりかと思います。そうした段階において、この40%というものをいつまで維持するのかという点、それは根拠も含めて検討が必要だろうと思います。
もう一点は、これも既に御指摘があった部分ですが、労災かくしの問題です。メリット制があることにより、労災かくしが現実に発生しているという指摘は無視できないところです。もっとも、労災かくしの理由は、労災保険料率のほかにも、安全衛生法上の取締りが入る、入札停止を受ける、社会的評価の低下など、多様な理由があるかと思いますので、そのことのみをもってメリット制を廃止してしまうという決定的な根拠としては弱いと思っています。
ただし、実際上、この40%という数字は気になるところで、資料の3ページなどにあるように、やはり1つの事故で数百万円という差が発生する。これに対し、死傷病報告を提出しない場合の罰金額が、いつから変わっていないのかは分からないところですが、50万円以下であると。現実的なところを見ると、労災かくしをしたほうが割に合うという、非常に問題のある形になってしまっているのは事実です。
これまでに議論されたメリット制の意義をいかしつつ弊害を除くためには、この罰則との関係と監督の問題とともに、バランスの取れた増減率の再検討が必要なのではないかと考えております。私からは以上です。
○小畑座長 ありがとうございました。ほかは、ありますか。よろしいでしょうか。小西委員、お願いいたします。
○小西委員 小西です。よろしくお願いいたします。メリット制について、災害防止の効果があるかということについてデータをお示しいただきまして、どうもありがとうございました。もう既に各委員からのお話と重なるところですが、少しだけお話させていただきたいと思います。
今回、こういうような形で調査していただいて、一定のデータに基づく検証がなされたということで、非常に勉強になったところです。併せて、このメリット制による災害防止の効果は非常に重要なポイントかと思いますので、引き続き、この点についてはデータを収集していただいて、現段階では、その限界、限定があったというお話もあったところですので、そこを更に詳細にというか、もし調べることができるのであれば、今後、引き続き調べていっていただきたいと思っております。事業規模や従業員数などをそろえて見ていくといったところも含めて、今後も引き続き調べていっていただければと思っております。
そういうことで、メリット制を政策的にどう考えていくかは、そういったデータから導かれていることと併せてですが、既にお話があったところですが、メリット制と事業主の労災補償責任との関係、あとは、労災かくしの問題も指摘されていると伺っておりますので、そういったデータからは捉えることができない、性質が異なる事柄については、引き続きしっかりとした議論が必要なのではないかと考えている次第です。私からは以上です。
○小畑座長 ありがとうございました。これで、全委員の御意見が出そろったかと思います。全体としては、複数の留保が付くけれども、災害防止努力に関して、メリット制というのは一定の効果があるという御意見の先生が多いと。しかし、それは評価するのが少し難しいのではないかという御意見も他方で出たところではあります。また、適用の対象に関しては、広げていくという可能性を考えてもよいのではないかという御意見と、このまま維持するということでよいのではないかという御意見の両方が出たとまとめていけるかなと思います。事務局においても、また整理などしていただけたらと思います。何か補足はありませんか。特にないでしょうか。ありがとうございます。それでは、こちらの論点については以上としたいと存じます。
次の論点に進みます。事務局のほうから御説明をお願いしたいと思います。
○労災管理課長補佐(企画担当) 御説明いたします。論点②の説明の前に、22ページを御覧ください。先ほど、団体からの御意見ということで、皆様にお配りしているとお伝えしたこちらの資料ですが、いわゆる「あんしん財団事件」は、労災保険法における事業主の審査請求や取消訴訟での適格性が争われた事件です。その際に、メリット制が労働者保護に与える影響といったことで存否に関わる御意見を頂いておりまして、こちらの資料をお示ししておりました。御紹介が漏れておりました。申し訳ございません。
それでは、論点②の御説明に移ります。24ページです。メリットの算定基礎の除外に係る現行の取扱いについてです。2ページでも御紹介しましたけれども、メリット制の趣旨・目的は、事業主間の公平性の確保と災害防止努力の促進です。しかしながら、ある種の疾病が特定の状況の下で発症したという場合においては、その疾病に係る保険給付をメリット収支率の算定対象に含めることで、メリット制の趣旨・目的をかえって実現できないという場合があります。労働保険徴収法などでは、算定対象からこういった給付について除外するといったことを定めております。
具体的には次のページです。特定疾病に罹患した者に係る保険給付等については、メリット制の分子に算入しないという取扱いを示しております。この「特定疾病にかかった者」とは、このページの表の左の欄に掲げております疾病に罹患された方が、この真ん中の事業に従事した場合、かつ、右の欄に記載するような就労状況にあったという場合です。この取扱いについては、24ページの参考部分の2つ目の○に記載しておりますけれども、いわゆる転々労働者の方たちが遅発性の職業疾病に罹患した場合に、そうした疾病の発生の責任について、最終事業場の事業主にのみ帰属させることは不合理であるという考えに基づき、昭和55年の法改正で導入されているものです。転々労働を常態とする業態、業種について、こうした転々労働者に発生する疾病について特定の就業状況であった場合にのみ除外対象としているもので、特定の疾病にかかった労働者を一律に算定の対象から除外しているものではないということに御留意いただければと思います。
26ページです。こちらは業務上疾病に係る業務起因性についてです。メリット収支率は、被災労働者の業務災害に対する労災保険給付を前提として算定されます。このとき、当然のことながら、保険給付については、業務と傷病との間に因果関係、すなわち業務起因性が認められるということが前提となってまいります。傷病のうち、疾病に係る業務起因性の判断につきましては、業務起因性の基本的考え方に記載しております3要件が認められることが必要です。業務起因性の判断に際しまして、業務上の有害因子、ここでは有毒な化学物質あるいは長時間労働なのですが、こういったものが認められる一方で、業務以外の要因が存在するという場合については、業務上の有害因子が相対的な有力な原因であるという場合に限って、業務起因性が認められるということになってまいります。
次のページです。こうした競合的な要因がある場合、どういった判断をしていくかということです。こちらは脳・心臓疾患の関係です。脳梗塞や心筋梗塞といった病気については、いわゆる血管病変によって生じるものです。血管病変自体は、加齢ですとか、長年の生活習慣などの様々な要因、御本人の体質といったものが絡みあった上で、長い年月の間で発症、悪化していくというもので、こうした脳疾患・心臓疾患といったものは業務災害に限らず広く一般的に見られる疾患です。しかしながら、業務による過重な負担が掛かることで、自然経過を超えてこうした血管病変等が著しく増悪するという場合に、脳疾患・心疾患が発症するといったことがあります。このため、業務が過重なものであるかといったことを判断するための基準が、労働基準局長通知によって定められておりまして、こちらがそのフローです。また、この黄色い表の下、※書きにありますように、過重な業務だったかどうかの判断は、同種労働者にとって特に過重かという観点から判断をされております。下の表の参考にありますけれども、認定率については近年3分の1程度で推移をしております。
28ページです。こちらは精神障害事案の関係です。上のグレーの四角部分、1つ目の○です。精神障害については、発病を促すストレス、これは過重な業務や生活環境の変化などですけれども、これと病気への脆さ、脆弱性と言いますけれども、鬱病や他の精神疾患の既往、あるいはアルコール依存をお持ちといったことですが、こうしたストレスと脆弱性といったものが作用し合って発病、再発に至ると言われております。こちらは「ストレス脆弱性モデル」と呼称しております。
2つ目の○ですけれども、精神障害の業務起因性の判断にあっても、労働基準局長通知による認定のメルクマールといったものが設けられております。具体的な判断フローについては、このページにあるとおりです。また、この心理的負荷の強度というのは、被災労働者と同種の労働者を基準に判断されることになっております。参考にありますとおり、精神障害についても、認定率は近年3分の1程度で推移をしています。
24ページでもお示しをしましたけれども、一定の条件の下に特定の疾病にかかった者に係る保険給付等については、メリット収支率の算定から除外する取扱いとしております。これは、疾病の発生を特定の事業主に帰属させることが適当でない、言わば災害が発生した事業場を医学的に特定することが困難であるという場合です。特定の事業主の保険料に反映させることが、かえって公平でないといった場合に限った、特殊な取扱いと言えると思っております。
現在、メリットの対象から除外しております疾病については、長期間、有害因子にばく露し発症した疾病で、転々労働者にとって、最終ばく露事業場での業務従事期間等を加味すれば、最終ばく露事業場での業務が疾病の発症に相対的に有力な発症原因とは言えないということも踏まえた上で、最終ばく露事業場のメリットの算入には入れないという取扱いとしているところです。一方で、今、御説明しました脳疾患・心臓疾患あるいは精神障害については、ある事業場での業務と発症との因果関係について判断基準が設けられているところで、業務が相対的に有力な発症要因となっているのか判断しているといったことについて、御留意いただければと思っております。
29ページを御覧ください。高齢者の労災についてです。近年、死傷病報告にあります休業4日以上の死傷者数のうち、60歳以上の労働者の占める割合は、真ん中の棒グラフですけれども、増加傾向にあります。また、その右隣、いわゆる千人率ですけれども、男女ともに最小となる25~29歳の範囲に比べますと、65~69歳の範囲は、男性で2倍、女性で約4倍と相対的に高くなっていることが見て取れます。
次のページの円グラフを御覧ください。高齢の労働者の産業別の構成比を見てまいりますと、全ての労働者と比較して大きな差異はないというところで、特定の災害発生率が高い業種に偏っているものではないといったことが見て取れます。
31ページです。こちらは外国人の労災についてです。ここで言う外国人とは、在留資格にかかわらない、国籍としての外国人です。左側の棒グラフですが、雇用者全体に占める外国人の割合は3.6%で、その隣の死傷病報告における休業4日以上の死傷者数の割合でいきますと、4.2%となっております。また、千人率で見ますと、全ての労働者よりもやや高い程度といったことが見て取れます。高齢者と比較すると、全ての労働者と比べてもそこまで大きな差異はない、やや高いといったことが見て取れるかと思っております。
32ページです。外国人労働者については、全ての労働者と比べますと、第一次産業や建設業といった比較的災害発生率が高い業種で働かれている割合が高いということが見て取れます。また、次の33ページを御覧ください。外国人労働者については、日本人労働者に比べて、若年層に偏りがあるといったことが見て取れるかと思います。
また、本論点の冒頭にも挙げたとおりですが、メリット制の趣旨・目的に立ち返りますと、メリット収支率の算定対象からある保険給付を除外するといったとき、その保険給付を算定対象とすることが事業主間の公平性の確保の支障となっているのか否か、その保険給付を算定対象から除くことで、事業主の自主的な災害防止努力を損なうことにならないかといったことを考える必要があるかと考えております。こうした観点も踏まえた上で、御議論いただければと考えております。論点②の説明は以上です。
○小畑座長 ありがとうございました。それでは、資料2の13ページにあります論点②のメリット制の算定対象につきまして御意見を伺えればと思います。いかがでしょうか。水島委員、お願いいたします。
○水島委員 24ページの特定疾病の場合の取扱いについて御説明いただき理解しました。公平性を図るために必要な、特殊な取扱いと理解しましたが、特定疾病は一度に決まったのか、あるいは、対象が追加されたのであれば、どのような場合に特定疾病に追加されたのか、お聞かせいただければと思います。これは質問です。
高齢者や外国人労働者をメリット収支率の算定対象外とすることについてです。高齢者については、確かに最近労災発生率が高くリスクが高いといえますし、年齢という客観的な基準で対象を決めることができますが、外国人は国籍としての外国人という説明でしたけれども、国籍で区別することが、そもそも適切かは疑問です。日本に長く居住して日本人と同様の生活を送っている外国人の方もいらっしゃいますので、国籍という基準設定自体に違和感がありました。外国人の方が入国して間もなく、危険な業務に従事されているケースがある、あるいは、文化や風習、言語の問題等もあって事故が発生している、そうした問題意識からこのような論点を設定されたと推測し、論点設定自体は理解します。以上です。
○小畑座長 ありがとうございます。御質問についてよろしいですか。お願いいたします。
○労災管理課長 また確認して御説明させていただきたいと思います。
○小畑座長 ありがとうございました。それでは、次に中野委員、お願いいたします。
○中野委員 論点②は、論点①について、メリット制には今日においても意義があり、維持すべきであるという結論を出すことを前提とした議論であろうかと思われます。私自身は、先ほど述べましたように、メリット制を維持すべきかについては疑問を持っておりますが、仮にそのような前提に立つならば、まず論点②の1点目については、事業主が従事させた業務との相当因果関係が認められる限り、脳・心臓疾患や精神障害についてもメリット制の適用対象から外す理由はないだろうと考えます。資料で説明されている特定疾病は、先ほども御説明がありましたように、日雇労働者など複数の事業場を転々としながら働く者が発症する疾病で、最後に就労した事業場における業務と疾病との相当因果関係を認めることが困難なものを、メリット制の算定対象から除外するものです。すなわち、複数の事業場での業務が合わさって疾病を発生させているが、特定の事業場の業務との間では相当因果関係を認めることができないという場合に、労働者に労災保険の保護を与えると同時に、一方で、特定の事業主に労働基準法上の災害補償責任が発生しているとは認められないことから、メリット制の算定対象から除外するというものだと理解しました。
これと同様の考え方は、脳・心臓疾患や精神障害についても、2020年改正で導入された複数業務要因災害が認められる場合には、既に採られていると理解しております。メリット制を維持することを前提とするのであれば、複数業務要因災害以外の場合、すなわち、特定の事業主の下での業務と脳・心臓疾患や精神障害の発症との間に相当因果関係が認められる場合には、メリット制の算定対象から除外することは正当化できないと思われます。
論点②の2点目についても、高齢者や外国人は、確かに加齢に伴う心身の能力の低下や、言語上のハードルにより、労働災害に遭うリスクが高く、脆弱性が高いグループであることは推測されます。他方で、そのような脆弱性が高い者を就労させるならば、その特性に沿った災害防止の措置を事業主は採るべきであると考えられますので、メリット制による災害防止の促進、その効果があるという立場を取るならば、これらのグループをメリット制の適用対象から除外する理由はないように思われます。
ただし、外国人の雇用は事業主の任意ですけれども、高齢者や、また、今回の資料には出ておりませんが、障害者については、雇用の促進が国の政策として進められており、企業に対して雇用や就業の機会の確保が法律で義務付けられています。
そして、障害者については、平成22年の名古屋高裁の判決で、事業主が身体障害者であることを前提として業務に従事させ、その基礎疾病が悪化して災害が発生したときには、脳・心臓疾患の業務起因性は当該労働者本人を基準として判断すべきという判断が示されています。この判決の立場に立つと、障害者にとっては、疾病の業務起因性が認められやすくなり、労災保険からの保護が厚くなる一方で、障害者の雇用に取り組む事業主は、メリット制を通じて重い保険料負担が課されるリスクを負うことになります。同様の問題は、精神障害者がその基礎疾病を悪化させて精神障害を発症したという場合にも生じ得ます。そうすると、高齢者や障害者については、雇用促進施策との一貫性を持たせるために、メリット制の適用について何らかの考慮をするということは考えられるのではないかと思いました。
あまり議論が一貫していなくて申し訳ないですけれども、以上です。
○小畑座長 ありがとうございました。続きまして、酒井委員、お願いいたします。
○酒井委員 論点②の2点目について発言させていただきます。先ほどもありましたけれども、あくまでメリット制を維持することが前提となった上での議論かと思いますが、まず、ここでデータをお示しいただきました高齢者と外国人のうち、高齢者については加齢に伴って労災リスクが高まるのは明らかと思いますが、外国人のほうは必ずしも労災リスクが高いとは限らないのではないか。特に、外国人と言いましても、様々な在留資格がありますし、それらによっても違うかと思いますので、外国人に関しては一律に議論できないと思いますので、以下の私の主張は高齢者のみに議論を絞りたいと思います。
私は法律的なことは分かっておりませんけれども、特定疾病をメリット制の算定の対象外とするという論理は、高齢者に関しては、ある面では当てはまりそうだけれども、ある面では当てはまらないのかなという印象を持って聞いておりました。高齢者のある種の労災に関して、その事業所だけに責任を負わせられるとは限らないという点では似ているところもあるのかなと思う一方で、当該事業所における業務に起因するかどうかについては、高齢者に関しては比較的明らかなのではないかと考えます。したがって、特定疾病と同じように高齢者を算定対象から外すというのは難しいというか、慎重にならなければいけないことだと考えます。高齢者に対する安全配慮はもちろん重要ですし、そのインセンティブとしてのメリット制を外してしまっていいのかと考えます。
ただ、一方で、同じ業務負荷であっても、高齢者と壮年層では、労災につながる確率が異なると考えるのも妥当かと思います。こうなると、高齢者を雇うことが、そもそも忌避される可能性がある。先ほどもありましたけれども、政府が積極的に高齢者雇用を推進しており、更には、雇用を確保すべき年齢も引き上げる傾向にあるわけです。その中で、こういった高齢者を雇うことに伴うペナルティをどう考えるか、政策的な整合性として説明が付くのかというところは思うところです。
もちろん、実際に高齢者を雇うことでメリット制による保険料率が高くなった結果として、どれほど雇い控えが生じるかは定かではない。というか、そんなに大きくないのではないかと私も思います。現下は特に人手不足という状況にありますので、どうであれ、多分、事業所は高齢者を雇う傾向が強いのではないかと思いますけれども、雇う側にとってどのようにこの制度が見えるかということです。やはり、高齢者の促進を政府がしているのに、雇うとなぜか労災保険料率が上がっていくというようなことが、事業所にとってどのように見えるかという観点は重要かと思います。
いろいろと述べてしまって申し訳ないですけれども、自身の考えを少しまとめると、やはり高齢者を算定対象から外すということは難しいのではないかと考える一方で、自然と労災リスクが高くなる高齢者を、ほかの年齢層と同じように扱って、メリット制の料率を算定してしまってよいのかという思いもあります。したがって、やや両者の折衷的な案になりますけれども、メリット制の対象から外すわけではないけれども、メリット制の料率の算定の際に、高齢者の給付については調整する、つまり幾らか割り引いて計算するということもあるのではないかと思います。高齢者の労災について、あるいは先ほど障害者等々の話も出てきましたけれども、最低限でも、これ以上メリット制を厳しくするということはあってはならないと考える次第です。以上です。
○小畑座長 ありがとうございました。中益委員、お願いいたします。
○中益委員 中益でございます。メリット制から、ある疾病や対象者を除外することは、事業主の業務防止行動から漏れることを意味すると考えますので、やはり慎重であるべきかと思います。これを前提として、疾病に関しては中野委員と同じ考えですので省略し、特に対象者の点について2点述べさせていただきます。
第1に、第1回の研究会では、被災率が高いであろう主体が、保険料率を引き上げないために、採用において避けられかねないとの点が指摘されたところですが、この点に関しましては、先ほども申しましたように、ここで問題となっているのが労働者の生命や身体という重大な法益ですから、採用行動をゆがませかねないという問題と同じレベルでは論じられないのではないかと考えます。先ほども申しましたように、メリット制がなければ、保険に伴いがちなモラルハザードを現実のものとし、災害予防行動を取らないほうがよいかのようなゆがんだインセンティブを与えるおそれがあると思われるからです。メリット制がなくても予防行動は変わらないのではないかとの御意見もあったところですが、労災かくしがあるということは、事業主の中に保険料負担、つまり、コストを意識しているものがあるということを表しているように思いますので、メリット制を変えれば事業主の行動が変わる、特にコストの掛かる予防措置を採らなくなるということは、あり得そうに思います。この弊害と、指摘されたような採用におけるゆがんだインセンティブのおそれを比較すると、やはり労働者の生命や身体に関するリスクを下げる方向で、つまり、災害防止行動に対する弊害を取り除けるように制度設計をするほうが、より重要ではないかと考えております。
また、ある応募者について、この人を採用したら業務災害が生じかねないのではないかとの懸念から採用しないということは、必ずしも不適当とは言えないと思いますが、こうした採用における判断と、ある属性をもって事業災害のリスクを感じ取り、コスト高になるだろうということから採用を避けるという採用判断とは、実際は区別するのが難しいのではないかという印象もあります。
第2に被災率が高いであろう主体を積極採用する企業が、保険料率が高くなりがちで、コスト高になりかねないという点も指摘がありましたが、確かにこれは難しい問題と思いますけれども、ここも、業務災害を予防し生命侵害傷病を避けることの重要性は看過し得ないように思います。つまり、被災率が高いであろう主体を積極採用する企業に対しては、業務災害が発生しても保険料率に影響がないというアプローチよりは、被災率が高いだろう主体が就労しても業務災害を発生させないようにするというアプローチのほうが、政策的にはより適切であるように思います。例えば、安全衛生の向上策を採る、過重労働等を避けるべく労働条件の改善を図るような制度設計にする、被災率が高いであろう主体に適した仕事を選択できるようなマッチングの問題として考えるとかで、こうした課題の解決に取り組むべきと思います。
したがって、これらの問題をメリット制の是非に持ち込むことが本当に妥当かどうかというと、個人的には若干の疑問が残るところです。以上です。
○小畑座長 ありがとうございました。ほかはいかがでしょうか。お願いいたします。
○労災管理課長 先ほど水島委員から頂いた御質問について確認できましたので御紹介します。資料の23、24ページで特定疾病の紹介をしましたが、上の3つ、非災害性腰痛、振動障害、じん肺症については、制度ができた当初からあります。その後追加されたものとして、その下の石綿が平成18年度、それから、一番下の騒音性難聴については平成24年度からということで、一斉に追加されたわけではなく順次追加されているということです。確認できましたので御説明しました。
○小畑座長 ありがとうございます。水島委員、今コメントはいいですか。
○水島委員 ありがとうございます。平成18年のアスベスト追加は何となく想像できるのですが、平成24年にどういう議論や要請があって騒音性難聴が追加されたのかが、もし分かりましたら、又の機会で結構ですので、お願いできればと思います。
○小畑座長 ありがとうございました。では、先ほど手が挙がりました笠木委員からお願いいたします。
○笠木委員 論点②については、論点①についてどう考えるかというところとも密接に結び付きますので、かなり委員の間で見解が分かれるところでもあるかと思います。私自身は、論点①で述べましたこと、つまり、メリット制の効果について、多くの留保を付して理解するべきであるように思われること、それから、メリット制が有し得る弊害といったことを踏まえますと、メリット制の算定対象を、予防の効果を上げやすいあるいは公平性の観点から、問題が小さいと思われる場面に限定していくという方向性での議論が必要ではないかと考えております。
これは、これまでのメリット制算定対象外の疾病をめぐる議論とは異なるロジック、つまり、業務起因性を特定の事業者との関係で特定できるかどうかという議論とは異なる観点からの適用対象の限定をしていくという考え方になろうかと思います。具体的には、まず、脳・心臓疾患や精神疾患については、今、説明がありましたように、発生機序が極めて複雑で、労働者側の事情も疾病の発生発展に影響を及ぼしますし、労災認定基準も日々複雑化しておりまして、労災予防のために使用者に求められる努力の具体的内容は非常に多様なものとなっております。また、認定基準においては同一労働者基準が採られてはおりますけれども、実際の認定や裁判所の判断では、先ほど中野委員からも御紹介がありましたように、各労働者の個別事情が、かなり広く考慮される傾向にあるように思われます。こういった中で、使用者が一通りの予防努力をしていても、結果として労災と認定される疾病が生じるケースも十分に想定が可能でありまして、メリット制の適用が使用者にとって不公平、あるいは予防促進という目的に必ずしも資さないと思われるケースが出てきているのではないかとも思っております。また、以下は推測にすぎませんけれども、こうした複雑な発生機序をたどる疾病の労災認定によるメリット制の適用が、この後半で論点となるメリット制に対する使用者の不服申立ての対象ともなりやすいのではないかということも想像できるところです。
次に、通常想定されている労働者に比較して、より大きな脆弱性を有すると思われる労働者についても、メリット制の算定対象から外す可能性について検討すべきと考えております。本日、御紹介いただいた中では特に高齢者が当たりまして、ほかに、既に中野委員から御指摘のあったとおり、障害を持つ労働者についても同様の検討の余地があると考えます。特に、一定の脆弱性を抱えつつも就労する労働者について、国の雇用政策によって就労が促進されている中で、業務により傷病が発生した場合には、できる限り労災保険給付が行われることが望ましい一方で、このことが、これらの労働者を雇用した使用者に結果的に重い保険料負担をもたらすということが、公平性を欠くように思われるためであります。
他方で、既に水島委員からも御指摘がありましたけれども、外国人については、外国籍であるということに結び付いた特別な脆弱性ということは考えにくいと思いますし、政策的に雇用が促進されている他の類型の労働者とは異なり、現段階では特別な取扱いは考える必要がないと考えます。
なお、一部の疾病や労働者について、メリット制の適用を除外しようという考えについては、そうした疾病や労働者について予防の努力が不要であるという考え方やモラルハザードにつながるという懸念があり、この懸念は十分に理解できますし、一定の配慮が必要であると考えます。ただ、現状でも、メリット制は、ごく一部の事業場、6割弱の労働者との関係でしか適用されておらず、あくまで一定の規模以上の事業場について、メリット制による予防の効果が得られやすい、あるいは、メリット制の適用に意味があるというような観点から、多くの政策的考慮を踏まえつつ、予防促進の1つの手段として適用されているものと考えております。そのため、メリット制の適用がないということは、使用者の予防努力が必要でないということは意味しないと説明することは十分に可能であると考えております。同時に、高齢者や障害者のような労災の危険が特に大きな労働者については、ガイドラインの策定や各種事業を通じて既に特別な対応も行われつつあり、そうした対応をより強化していくことが重要であって、そういった努力が強化されることは、メリット制の適用を外すこととは理論的には全く矛盾しないと考えます。
また、日本では過失責任については労災認定と同時に民事損害賠償の請求も可能でありまして、使用者の安全配慮義務については、近年、厳格に捉えられる傾向にあるということにも留意すべきと考えます。以上です。
○小畑座長 ありがとうございました。続きまして、坂井委員、お願いします。
○坂井委員 では、まず論点②の前段部分、疾病の特徴とメリット制の関係ですけれども、結論としては、私は、脳・心臓疾患や精神疾患を算定対象外にすべきではないという考えであります。この問題については、既にいずれも言及されている点ですけれども、2つの観点から検討の余地があるのではないかと思います。
第1に、脳・心臓疾患や精神疾患の特徴のうち、個体要因や私生活上の事情といったものがその発症に寄与しているという事情がありますけれども、これについてはメリット制の関係で重視すべきではないと考えております。というのは、個体要因や私生活上の事情の影響は、確かに脳・心臓疾患や精神疾患との関係で特に顕著に現れる問題ではありますが、本日の資料の26ページの説明にもありますように、それ以外の典型的な職業病であっても、やはり業務外の要因との競合というのはあり得るところであります。
その上で、資料26~28ページで整理されている考え方によって、業務起因性が肯定される傷病の範囲を確定して、そのような傷病について、災害補償に関する使用者の責任を基礎として、事業主の保険料負担による補償給付を行っているのだというところかと思います。このように理解すると、特に個体要因や私生活上の事情が関与しているという理由によって、脳・心臓疾患や精神疾患をメリット収支率の対象外とすべきではないという考えに至りました。
着眼点の第2としましては、業務遂行に関して高度の裁量を持つ労働者が増加してくると、その過重労働の予防に関する使用者の関与の余地が縮小してしまうという事情が他方であるかと思います。このような事情があるとすると、メリット制の趣旨との関係では、これらの疾患に関する給付額を労災保険率に反映させることは、少なくとも自主的な災害防止の努力を促進しようとするという趣旨とは整合しないという主張に結び付くと思います。また、災害補償の責任に関する理解、立場によってはという留保は付きますが、個々の事業主の負担の具体的公平性を図るために必要ではないといった主張もあり得るところかと思います。
もっとも、私としては、現状では過重労働の予防について事業主が果たし得る役割はいまだに大きいと考えておりますので、結論としては、これらの疾患をメリット制の算定対象から除外すべきではないという考え方であります。他方で、今後の中長期的な課題としましては、働き方に関する多様化の進展というものを注視しつつ、このような観点からメリット制との関係で、脳・心臓疾患、精神疾患の位置付けを検証していくということには意義があると考えているところであります。
次は、論点②の後段部分です。労働者の属性とメリット制との関係ですけれども、この課題についても、私は、高齢者・外国人をメリット収支率の算定対象外とすべきではないと考えております。ここで注目している高齢者・外国人は、いわゆるダイバーシティマネジメントの観点から活躍が期待されている人材という特徴も持っておりますので、この点に着目して状況を整理してみたいと思います。
ダイバーシティマネジメントをめぐる議論では、労働力人口の減少を受けて、これまで基幹的な労働力と位置付けられてきた労働者だけでは、各企業が必要とする人材を確保できないという状況の中で、ここで問題となっている高齢者・外国人のほか、障害者や育児・介護を担う労働者なども含めて、その属性に応じた労務管理上の特別な負担がある、すなわち金銭が掛かる、時間が掛かる、手間が掛かるということは当然の前提として、しかし、これらの人たちの活躍が必要だから、その活躍ができる環境を整備しようという問題意識があるのだろうと認識をしております。もう少し具体的に言えば、障害者に関しては合理的な配慮の提供や、家庭責任を負う労働者に関しては育児・介護への配慮といった負担を企業が負いつつも、これらの労働者の活躍を促すというのが、現在の労働市場の状況になっているのだと思います。
そうすると、労災保険における高齢者・外国人の取扱いに関しましても、これらの労働者について、メリット制を介した労災保険料の負担を軽減するという方法で雇用促進を図るのではなくて、労働災害の予防・補償に関する責任を個々の使用者にしっかりと果たしてもらいつつ、その活躍を促すというような方向が望ましいのではないかと考えております。私からは以上です。
○小畑座長 ありがとうございました。ほかに御意見はいかがでしょうか。
○地神委員 現在、特定の疾病を算定対象外にするかどうかという点について、ここでは精神障害を想定しながら議論してみたいと思います。これまでに、特に中野委員や坂井委員から、かなり理論的に、これを算定外とするべきではないという御説明があったかと思いますが、実際上のところをもう少し見てみると、精神障害に関しては、その性質上、業務起因性判断はかなり微妙で、ここは恐らく、どの委員も共有しているところかと思います。加えて認定にかけることができるコストというところにも限界があります。
そのようなことを考えると、たとえ業務上であると行政で判断したとしても、ある程度微妙なケースが給付対象に含まれてしまうことはやむを得ない、これは制度が想定済みのことではないかと考えられます。この点で、精神障害については、個別の事業主ではなく事業主全体でそのコストを引き受ける、メリット制の算定対象から外すということが、公平にかなうと私は考えております。
もう1つ、メリット制から外すことにより災害防止努力に影響があるという点に関しまして、近年、精神障害についての判断は、民事訴訟と極めて近接してきております。事業主が、たとえメリット制の対象から精神障害が外れたからと言って、この民事訴訟への影響というものを考えたときに、急に長時間労働を解禁するなど、そのような過重労働を避けるための行動をとりやめるということは、現実的には考えにくいのではないかと考えております。
また、既に申し上げましたとおり、業務起因性判断が極めて微妙であるという点ですが、実際、行政訴訟においても民事訴訟においても多くの争いが発生しているところであります。労働者に対して保険給付が行われた結果、保険料率が上昇した事業主が、保険料認定処分の段階で労災支給決定が妥当ではないとして争うケースの増加、これを想定しますと、紛争防止の観点からも算定対象外とすることを考えてもよいのではないかと思います。
後段部分ですけれども、これも、おおむねほかの先生方と重なる部分がありますが、いわゆる雇い控えの問題については、私自身は、労災保険が対象とするところではなく雇用政策の問題であって、雇用保険あるいは労災の中で扱うのであれば、せめて社会復帰促進等事業などの活用によるべきと考えます。そのほうが雇用情勢などに対応した柔軟な対応も可能かと思いますので、私はそちらに重点を置くべきだと考えております。以上です。
○小畑座長 ありがとうございました。ほかはいかがでしょうか。御意見はございませんか。酒井委員、お願いします。
○酒井委員 この論点②に直接関係ないかもしれませんけれども、次の論点がメリット制の適用の話ではなくなってしまうので、ここで述べさせてください。先ほどから、今回のメリット制に関して、ある局面では労災抑止に効果があるかもしれないけれども、そもそも、労災には、努力して抑止ができるものと、そうでないものがあるのではないかという指摘が繰り返し出てきているかと思います。それは、全く私もそのとおりだと考えております。ただ、抑止しやすい労災がある、あるいは、そうでない労災があるというのは、事業所が直面している労災リスクという観点からは、業種ごとによって多分に異なるのではないかと思います。その観点からは、やはり労災保険料率が業種ごとに適切に定められているということが前提になるという気がします。
ですので、ちょっと大きな議論で恐縮なのですけれども、今回、メリット制に絞って議論していますけれども、そのメリット制の在り方を議論するには、そもそも業種ごとの保険料率が適切か、どうあるべきかということと併せて考えるべきという観点もあるかと思いました。以上です。
○小畑座長 ありがとうございます。ほかはいかがですか。大丈夫でしょうか。
こちらの論点に関しましては、まず、先ほどの論点に関して多くの留保を付けつつ、メリット制が効果があるというような出発点、また、それを評価するのは大変難しいという出発点、どちらに立つのか。そして、その留保の内容も様々でありましたが、その留保の内容との関連でどう考えるのかということとの関係でも、多くの違ったお立場というものが表明された状況です。このように非常に複雑な状況になっておりますので、またそれを事務局で整理していただく。その中で、災害防止努力、そして公平性、この2つのキーワードというものをメリット制について前提としつつも、いわゆる雇用促進の問題、疾病の特徴の問題、紛争の防止の問題、業種ごとの労災保険料率の問題など、そういった観点を加味しつつ議論を整理していただくということでお願いしたいと思います。
ほかに、何かこれについて更にという御意見はございますか。大丈夫でしょうか。ありがとうございます。
それでは、その次の論点につきまして事務局から御説明を頂きたいと思います。資料3「労災保険給付が及ぼす徴収手続の課題について」の御説明をお願いいたします。
○労災管理課長補佐(企画担当) 御説明します。論点案を御覧ください。論点①は、メリット制の適用を受ける事業主に対して、労災保険率の算定の基礎となった労災保険給付に関する情報を提供すべきか、情報を提供する場合、労働者の個人情報保護の観点等にも配慮いたしまして、どこまでの情報について提供すべきかを御議論いただきたいと考えております。論点②は、メリット制の適用、非適用にかかわらず、労災保険給付の支給決定あるいは不支給決定の事実を事業主に通知をすることについて、どのように考えるのかということです。
論点①、3ページを御覧ください。メリット制の適用の流れを御説明します。労災保険給付の支給決定がありますと、その翌々年度以降の労災保険率が、当該事業場における給付総額に応じ、増減されることになります。事業主が通知された率と異なる率によって申告・納付を行った場合、都道府県労働局がメリット適用保険率による保険料額を職権で決定いたします認定決定を行います。左下にありますとおり、メリット制適用の基礎となった労災保険給付の支給決定については、事業主には通知がされていない状況です。事業主は、青枠内の労災保険率決定通知書において、メリット制が適用された労災保険率を認識することになっています。
4ページの右枠のとおり、労災保険率決定通知書の記載事項には、メリット料率の算定基礎となった労災保険給付情報は含まれていません。5ページの右下にありますが、認定決定の通知書における記載事項にも、メリット料率の算定基礎となった労災保険給付情報は含まれていません。
資料の6ページです。メリット制適用事業主に対する労災保険給付情報の提供案として考えられるものを、一例として掲載しております。
資料7ページは御参考です。昨年7月にありました、あんしん財団事件の最高裁判決について、そのポイントを記載しております。
8ページも御参考です。労働保険徴収法における事業主がメリット制の適用について審査請求等を行う場合の流れについて表したものです。
10ページは、支給決定や不支給決定の事実に関する事業主への通知です。下の枠内ですが、実際に労働災害が発生した、負傷・疾病の発生といったことで、被災労働者などから労災保険給付請求が行われますと、黒い吹き出しにございますが、請求書の中に事業主の証明に関する欄といったものがあります。ですので、事業主としては、この機会に被災労働者が保険給付請求を行っていることが認識できるというものです。また、その隣ですが、監督署による災害発生状況等の調査の過程で、実際に事業主に対して労基署が接触をするといった過程でも、請求がなされていることが認識できるというものです。その上で、給付に関する支給・不支給決定といったものがなされますが、これは請求人に対して通知がなされるというもので、赤い枠内にありますが、事業主に対しては、支給・不支給に関する結果といったものは通知がされず、メリットが適用されている事業主であれば、仮に支給決定がなされている場合、2年遅れで、そういった保険料率から請求が容認されたことがうかがえるというものです。
本来、労災保険法の中で見ていきますと、被災労働者に対して保険給付を行うと同時に、事業主が再発防止策を講じていくことが必要になってまいります。こうした支給決定がなされたことが認識されないという状況において、そういった再発防止策を促すことができないのではないかという問題意識の下で、この論点を設定させていただいています。説明は以上です。
○小畑座長 ありがとうございました。それでは、資料3の1ページ目の論点に沿いましてお伺いしたいと思います。事務局からは論点①と②が示されておりますが、①、②をまとめて議論したいと思います。御意見のある方からお願いいたします。いかがでしょうか。水島委員、お願いいたします。
○水島委員 労災保険は、政府が所管し事業主が保険料を納めるという形になっていますが、素朴な感想として、これは政府の説明不足ではないかと思いました。これは、論点①にも②にも共通するものです。
論点①に関しては、事業主の中には、これを不意打ち的に感じる者もいると思います。事業主が納得できないとしても、せめて理解できるような説明が、申告・納付をした後ではなく、もっと早い段階で必要と考えます。事業主が情報を得ることによる御懸念の声があることは認識していますが、私は、保険料を負担する事業主に対しては情報を提供するのが原則であると考えますし、弊害が生じるのであれば、原則を踏まえた上で弊害が生じない方法を考えるべきであると思います。
私はこのような考えですので、論点②についても、保険の仕組みからして当然、保険料を負担している事業主に対して、こうした事実を伝えるべきと考えます。御説明にありましたように、早期に労災事故防止に取り組むという重要な観点もありますので、私は、この支給決定・不支給決定の事実は、できるだけ早い段階で事業主に伝えるべきであると考えます。
○小畑座長 ありがとうございます。次にどなたかおられますか。御意見はございますか。坂井委員、お願いいたします。
○坂井委員 では、発言させてもらいます。まず、論点①についてですが、労災保険における使用者の保険料負担というのは、これまでもしばしば言及されておりますとおり、労基法における個別使用者の災害補償に関する責任を基礎としているわけです。この労基法上の災害補償責任については、少なくとも使用者が補償の対象となる損害について個別具体的に、すなわち、どの労働者について、どのような災害により、どのような損害が発生したかといった事実を把握することが前提となっているのだろうと思います。そうすると、この責任の確実な履行を担保する労災保険において、特に上記の補償責任を基礎とする使用者の保険料負担の部分に関しては、使用者は、自身の保険料負担の前提となる労災補償に関する事実について、重要な利害を持っていると言えるのではないかと思います。
確かに現在の労働者の意識からしますと、例えば自身の健康状態や診療内容を使用者に知られたくない、したがって、これに関連する例えば療養補償給付の支給決定や給付額といったものを使用者に通知をしてほしくないという気持ちは、もちろん分かるのですが、少なくとも使用者の保険料負担の基礎となる基本的な情報、すなわち、労働者、災害、傷病、給付額といったものを特定し得る情報というのは、使用者への提供が正当化されるのではないかと考えております。
このような考え方を前提に、論点②番に関してですが、個々の労働災害に関する使用者の災害補償責任を基礎として、労災保険における使用者の保険料負担が基礎付けられているということを考慮すると、やはり支給決定・不支給決定の事実についても、これを使用者に通知することに合理性が認められると考えております。特に支給決定・不支給決定とメリット制を適用した保険料額の決定との間に、先ほども御説明があったとおり、時間的な隔たりがあるということを考慮すると、支給決定(不支給決定)の時点で、その事実を事業主に通知する意味は小さくないと考えております。私からは以上です。
○小畑座長 ありがとうございました。笠木委員、お願いいたします。
○笠木委員 ①については、まず資料にも挙げていただきましたとおり、令和6年の最高裁判決は、労災保険給付支給決定についての使用者の原告適格を否定するに当たって、当該事案では直接に問題となっていない保険料認定処分をめぐる使用者の手続保障が別の形で図られるということに、明示的に言及していまして、このことには重要な意味があると考えます。ですので、メリット制の適用を受ける事業主への保険料認定処分をめぐって、十分な手続保障が担保されるということは非常に重要なことで、労働者の個人情報保護への配慮というものもあるかとは思いますが、できる限り多くの情報を提供することが求められると考えております。
これと似たような観点になりますが、②についても、まずは労災予防という本日御説明いただいた観点から、確かに支給決定の事実が事業主に情報提供されるということは、基本的に望ましいことと考えております。また、メリット制の適用を争う時点では、労災保険支給決定から翌々年度となっており、労災に当たる事故や疾病の発生からは更に時間がたってしまいますので、支給決定の時点で使用者に情報提供がされるということは、手続保障の観点からしても適切ではないかと考えております。
他方で、以下、実務の流れを十分に理解しておりませんので、若干、推測のようなことになってしまいますが、支給決定について使用者への情報提供が行われ、数年後にメリット制が適用されれば、その時点で不服申立てができるということになりますと、そのこと自体は適切であると考えられる一方で、結果として、将来のメリット制の適用を予想して、使用者が被災労働者や遺族にコンタクトを取ったり、被災労働者に協力する資料提供者や証言者などに接触を試みるというような形で、関係者にとって事実上の追加的な負担が生じる可能性があるかと思います。この点は、水島委員が御懸念とおっしゃられたことに当たるかもしれません。また、今回の論点の範囲を超えて、少し一般的な議論になってしまいますが、使用者への手続保障の充実ということは最高裁も求めている重要な要請であると考えられる一方で、それによって、今後、増加していく可能性のある不服申立てや、それに向けて使用者が様々なアクションを起こすことで、被災労働者や関係者に事実上生じ得る直接・間接の負担について、どのように考えるかということは、別の重要な問題として検討や考慮が必要であるようにも思われます。
この点については、私自身は労災認定の実務等に関与しておりませんので、正確な知見を持ちませんが、その内容としてどういった事実上の負担があり得るのかというところについて、もう少し詳しく、場合によってはヒアリングなどを行って理解をした上で議論するといったことも、検討に値するのではないかと考えております。以上です。
○小畑座長 ありがとうございました。それでは、中野委員、お願いいたします。
○中野委員 大分、皆さんの御発言とかぶるところもあるのですが、論点①に関しましては、あんしん財団事件の最高裁判決は、メリット制の適用を受ける事業主が、保険料認定処分の不服申立て又はその取消訴訟において、メリット収支率の算定の基礎となった保険給付支給決定処分の支給要件非該当性を主張できるとしておりますが、そのための前提としては、事業主が算定の根拠となった保険給付支給決定を特定できることが必要となります。そうすると、3ページの適用の流れの図で言えば、遅くとも労災保険率決定通知書の送付の時点で、事業主に対して、不服申立てをするために必要十分な、なぜ保険料率が増減したのかが分かるだけの情報が提供されなければならないと思われます。
どこまでの情報を提供すべきかについては、確かに企業の規模や災害発生状況によっては、保険給付を受領している労働者個人を簡単に特定できてしまうという問題も生じ得ますが、論点②でも出てきますように、もともと事業主は保険給付の申請時に請求書の作成や監督署による調査に協力をしており、労働者が申請をした事実自体は把握をしています。保険給付の額についても、事業主が労働者に支払う賃金を基に基本的には算定されておりますので、労働者の心理的なハードルという事実上の問題はあるかもしれませんが、資料6ページに提案されているような情報を事業主に知らせることに問題はないのではないかと考えますし、必要な情報であろうと考えます。
論点②に関しましては、支給決定がメリット保険料率へ反映されるのは2年後、翌々年度であり、支給・不支給決定の時点で事業主に対して通知がなされても、その後、実際に不服申立てをするまでに、大分タイムラグがあるわけですが、事業主にとっては、その先に起こり得る問題について覚悟ができ、資料の保存などの準備をすることもできるという点で意味があると思います。ただ、個別の請求と直接に結びつく形で事業主が結果を知ることに伴って、笠木委員が御指摘されたような事実上の問題、労働者や遺族に対してプレッシャーが掛かるといった問題が起こり得るという点には配慮が必要かと思います。それでもなお、本日資料でお示ししていただいている、労働災害の再発の防止に取り組むインセンティブを与えるという観点からも、支給・不支給の決定の結果が事業主に早い段階で知らされるということには意味があるのではないかと思います。以上です。
○小畑座長 ありがとうございました。中益委員、お願いいたします。
○中益委員 中益でございます。論点①ですが、事業主にとっての手続保障という観点から、一定の情報を開示すべきとは思いますが、業務災害の情報は、病歴、障害、犯罪の被害を受けた事実など、要配慮情報を含む可能性がありますので、慎重に扱うべきと思います。労働者にとっては、これらの情報を意図的に使用者に隠している場合が考えられ、そのような場合には、これらの情報が自動的に使用者につまびらかになる仕組みを労災保険において採りますと、労働者の労災申請に忌避行動が出かねないように思います。例えば、資料の10ページ、手続の段階で事業主に知られるようなタイミングがあるわけですが、事業主の証明欄は相当に簡便なものであるはずですし、その次の事業場の訪問や事業主への聴取等も必ずなされるわけではないと思います。たとえば、実務がどうなっているか承知しておりませんが、恐らく被災労働者が嫌がって、使用者に知られるならば請求を取り下げるといったような事情があれば、聴取等もなされないのではのではと想像しますので、そのような知られたくない災害が水面下に潜り込みかねないような手続は、やはり慎重に扱うべきかと考えております。
他方で、論点②ですが、メリット制が適用される事業であるか否かにかかわらず、やはり事業主全体に支給決定があったかどうかくらいの事実は伝えるべきかと考えております。メリット制の適用を受けない事業にも、事業の種類別に異なる保険料率の適用がありますが、この仕組みは業種別メリット制と呼ぶこともあったものです。つまり、その狙いは、個別事業のメリット制と同様に、公平と予防の観点から導入されたものです。したがって、個別事業のメリット制が適用されるか否かにかかわらず、同種事業の業務災害を抑制すべく、各事業は災害防止の努力を求められていると考えられるところです。そして、具体的にどのような予防行動を取るかについては、業務災害についての情報を知ることが、やはり出発点となると思われますので、先ほど申しましたような労働者の個人情報保護の観点からの限界はあるにせよ、災害発生の有無程度は事業主に承知していただくのがよいと考えます。以上です。
○小畑座長 ありがとうございます。ほかはいかがでしょうか。よろしいでしょうか。今のところ、①と②について、使用者にとっての手続保障の重要性というのが強調されますと、①についても情報を提供すべきというお立場が強いかと思いますが、今、中益先生から出ましたように、非常に微妙な病歴であるとか障害といった情報を労働者が隠しているかもしれないと、そういった点に配慮すべきではないのかという御指摘もあったところです。②に関しては、災害防止努力というのを、いち早く始めるためにも、支給決定若しくは不支給決定というものを事業主に伝えるのが早いということは、とてもいいことであると。他方、笠木先生や中野先生の御指摘がありましたが、そういうことが、不服申立てという事業主のアクションとの関係で、被災労働者や御遺族、関係者の負担というような問題を生じかねないのではないかという点について、考えていく必要があるのではないかと。そういったことかと思います。
この観点について、何かほかに重ねての御意見はありますか。よろしいでしょうか。では、事務局でまた整理をしていただいて、これについて、まとめをお願いしたいと思います。
それでは、次回の日程等について、事務局から御説明をお願いいたします。
○労災管理課長補佐(企画担当) 次回の日程ですが、調整の上、追ってお知らせいたします。
○小畑座長 ありがとうございました。これにて、第5回労災保険制度の在り方に関する研究会を終了いたします。本日はお忙しい中、お集まりいただきまして、誠にありがとうございました。終了いたします。
本日の研究会につきましては、小西委員及び中野委員がオンラインで御参加です。また、事務局に人事異動があると聞いておりますので、御紹介をよろしくお願いいたします。
○労災管理課長 それでは、事務局より4月1日付けの人事異動を御紹介いたします。補償課長に着任いたしました黒部でございます。
○補償課長 黒部でございます。よろしくお願いします。
○労災管理課長 人事異動は、以上でございます。
○小畑座長 ありがとうございました。カメラ撮りにつきましては、ここまでとさせていただきます。
それでは、本日の議事に入りたいと思います。本日の議題は「労災保険制度の在り方について(徴収関係等)」です。本日の議題の1つ目、メリット制に入りたいと思います。まずは、事務局から資料の御説明をお願いいたします。
○労災管理課長補佐(企画担当) 企画班長の狩集です。御説明いたします。資料1を御覧ください。こちらは、昨年12月に開催しました第1回研究会の中で、皆様からメリット制に関して頂いた御意見を事務局で取りまとめているものです。
資料2を御覧ください。2ページです。メリット制の趣旨・目的です。メリット制については、事業主の災害実績を評価することで、保険料の割引又は割増しを行うということで、事業主間の保険料負担の公平性を確保する、また、事業主の災害防止努力の促進を図るといったことが目的です。メリット制が導入されました当初、これは昭和26年ですが、この当時は継続事業に限定されており、建設と林業については対象となっていなかったところです。しかしながら、その後、これらの産業についても災害が多発しているといった事情も踏まえ、昭和30年、40年にそれぞれ適用対象となっております。現在では、全ての業種にメリット制が適用されているところです。こうした適用の拡大に関する経緯に関しては、こちらの参考部分に記載しております。
3ページ、4ページです。こちらのメリット制が適用されている事業場で、どの程度の災害が起こった場合に、どの程度労災保険料に影響を与えるのかについて、モデルケースをお示ししているものです。実際に保険料に与える影響は、この算定期間の保険料や被災された労働者の賃金、傷病の程度により変動してまいりますので、一概に申し上げることはできませんが、3ページでは金属精錬業、こちらは比較的災害発生率が高い業種、4ページでは宿泊業、こちらは災害発生率が比較的低い業種といったことで、それぞれ想定される、よく起きる災害について仮定した上で計算を行っているものです。なお、現行の業種ごとの料率についてですが、こちらは12ページに参考として一覧化しております。
戻って、5ページを御覧ください。令和5年度にメリット制が適用された事業場は約14万7千事業場ありますが、このうち、8割が保険率の引下げの対象となっており、全体の半数近くが引下げの最大値であるマイナス40%となっております。
6ページです。メリット制が適用されている事業場ですが、こちらの事業場ベースで見てまいりますと、左側の円グラフですが、約4%の事業場をカバーしているということです。この事業場の数で見ていきますと、少なく見えるという向きもありますが、右隣の労働者に置き換えた円グラフですが、この適用事業場で働いている労働者の方で見ると、全ての労働者の約6割がカバーをされているところです。
7ページです。こちらは、令和4年度と令和5年度において、いずれもメリットを適用されていた事業場において、メリット増減率がどのように推移したかを集計したものです。結果については左下の表に記載しておりますが、変化がないものが2分の1強、上がったもの、下がったものがそれぞれ4分の1弱となっており、継続してメリットが適用されている事業場においては、メリットの増減は必ずしも固定しているわけではなく、ある程度の入れ替わりがあるというところです。
8ページから12ページにかけては、第1回研究会でお示しをした資料をもう一度再掲しているようなものですので、御参考です。詳細な説明は省略いたします。
13ページは、論点案です。論点①です。メリット制に関しましては、冒頭申し上げましたとおり、労災保険法の制定間もない時期から実施をされております。一方で、我が国の産業構造が変化し、作業関連疾患に係る労災認定も増加しているという中で、適用対象は妥当か、今日でも事業主の災害防止を促す効果があるのかといった点について御議論いただきたいと考えております。
論点②です。精神障害による労災認定の増加、あるいは就労現場において高齢者や外国人の労働者の割合が高まっているということも踏まえ、一定の脆弱性を有する労働者、災害リスクの高い労働者による事故については、メリットの算定基礎の対象外とするといったことの妥当性について御議論いただきたいと考えております。なお、資料が大部にわたりますので、説明は一旦論点①の部分で区切らせていただきたいと思います。
15ページを御覧ください。メリット制度の効果をどのように評価するかです。今回、メリットの適用事業場の被災者数の増減率に着目し、メリット制度の災害防止効果について検証を試みております。検証方法として、まず前提ですが、保険料規模の小さい事業場ですと、ささいな事故でも収支率に大きなインパクトをもたらしてしまいますので、事業主の方の災害防止努力を評価する上では、災害がある程度の頻度をもって発生することが必要になってまいります。すなわち、労働者の規模がある程度大きいことが前提となってまいりますので、今回の検証に当たっては、一定以上の労働者数が見込まれます建設業、製造業といった6つの業種を選定しております。これら6つの業種につきまして、メリットの適用、非適用にかかわらない全ての事業場と、メリット適用事業場とで、平成30年度から令和4年度までにかけての被災者数の前年度からの増減率を比較しております。これは、適用事業場における増減率が、全ての事業場の増減率よりも低いということであれば、災害防止効果が発揮されていると考えられるというものです。
16ページを御覧ください。適用事業場における増減率に関しまして、①~⑧の区分けを行っております。①~⑧ですが、こちらの労災保険の収支率が比較的高い、すなわち労災が比較的多い事業場が①~④です。⑤~⑧については、収支率が比較的低い、すなわち労災が比較的少ない事業場ということで区分けをしているものです。
17ページは、検証結果です。端的に要点を申し上げますと、メリットがプラスで適用された事業場については、全ての事業場よりも増減率がおおむね低いという結果となっており、一定の災害防止効果が働いたといったことがうかがえます。メリットがマイナスで適用されている事業場ですが、こちらは全ての事業場よりも増減率が低い場合と高い場合が同じぐらい混在しておりますので、増減率だけに着目して災害防止効果を直ちに判断することは難しいところです。
その上で、18ページを御覧ください。このマイナスでメリットが適用された事業場についてですが、過去の保険収支が良好であったということは、マイナスのメリットが適用された時点で、既に災害防止効果が発揮されているとも考えられます。また、18ページの真ん中の2つの表を御覧いただきますと、令和4年度のメリット適用事業場について、前年度であります令和3年度の被災者数が0又は5人未満の事業場の割合が、メリットが適用されています全ての事業場のそれよりも高いということになっており、そもそも災害防止効果がこれ以上出ない又は出すことが難しいという状況になったと考えられます。また、この表は令和4年度の適用事業場を例に取っておりますが、平成30年度から令和3年度までにかけても、同様の傾向が見て取れるというものです。
16ページから17ページにかけまして、検証方法について、より子細に説明しておりますが、細目的な内容になりますので、こちらでは省略いたします。
19ページを御覧ください。こちらは、先ほどの資料の5ページの再掲です。この資料を見ていただきますと、現在、労災保険率の引下げの対象となっている事業場は約8割で、全体の半数近くがマイナスの最大値の適用を受けています。これは、メリット制による災害防止効果が機能してきたことで、労災の発生が抑制されてきたということの帰結ではないかと考えられます。
20ページです。こちらも、先ほどの6ページの資料の再掲ですが、労働者規模で見てまいりますと、6割程度の労働者の方がカバーされているということになってまいります。また、保険料で考えていくときに、賃金総額といったもので見ていきますので、この青い部分は、赤い部分よりも、より大きくなってくることが考えられます。言わば、このメリット制が費用対効果に優れている仕組みということが言えるのではないかと考えております。
21ページです。メリット制の適用により、令和5年度においては割引額が引上額を約1,570億円上回っております。この差額分を見越した上で、保険率が設定されてまいります。論点①については以上です。
なお、補足ですが、委員の皆様の机上に、メリット制に関しまして様々な団体から御意見を頂いているところですので、御参考として配布させていただいています。以上でございます。
○小畑座長 ありがとうございました。それでは資料2、13ページ目の論点①メリット制の意義・効果について、意見をお伺いしたいと思います。御発言の際は、会場の委員におかれましては挙手を、オンラインから参加の委員におかれましてはチャットのメッセージから「発言希望」と入力いただくか、挙手ボタンで御連絡いただきますようお願いいたします。それでは御意見、いかがでしょうか。酒井委員、お願いいたします。
○酒井委員 論点①に関しては、実証結果がメインになるかと思いますので、始めに発言させていただきたいと思います。主に資料2の17ページがメインの検証結果なのかなと思う次第ですが、一般論として、現代の実証分析では、ある措置や政策などの対象になった主体に生じた変化が、純粋に、その措置や政策の効果によるものかを判断するために、平均的に似た条件の主体と比較することを重んじます。その意味で、今回示されたデータというのは、メリット制による保険料率の上昇が労災抑止に一定程度の効果があることを可視化できているのではないかなと思います。もちろん、そこには厳密に言えば更に精緻な統計的検定が必要ですし、そもそも、メリット制による保険料率の増減が必ずしも外生的ではない、すなわちランダムではないという意味で、経済学でいうところの内生性の問題の懸念もあり、まだツッコミどころはあるのですけれども、一定程度は可視化できているのではないかなと考えております。
1点、言及しておくと、こういったメリット制の効果に関する検証方法としては、ほかにもいろいろあるはずだと思われる方もいるかと思いますし、私自身もそのように考えて、リサーチデザインに関して事前に事務局のほうから相談を受けた際にも、ほかの方法もあるのではないかということを提案させていただきました。そして、それらの方法が可能かどうかを検討していただいたのですが、やはり、労災のデータというのはすごく特殊な面があり、データの構造上、難しいということがあり、唯一、残った検証方法がこの方法という感じです。
1つ留保を付けさせていただくとすると、ここで行われている効果検証が示しているのは、例えば、メリット制が労災かくしを誘発しているのではないかといった主張に対して何らかのエビデンスを示すものではないということです。以上が、この検証結果全体に関する私の見立てになります。
1点だけ、細かいところを述べさせていただきたいのですが、全体としてメリット制に効果があるということは分かったのですが、こういった統計データにはいろいろな側面があるかなという気がしております。それで、ちょっと1点だけ感想めいたことを述べさせていただきたいのですが、資料2の7ページ、メリット増減率の遷移ということで、前年からその次の年にかけてのメリット増減率を示された表があります。私の認識違いかもしれないのですが、先ほどの御説明だと、メリット増減率は必ずしも固定化されていないということだったのですが、例えば、前年プラス40%の事業所のうち、翌年もプラス40%である事業場は、全体の3分の2あるのです。これが、例えばプラス30%でも4割強あるというような形で、結構、メリット増減率が変わらない事業場が多い、特にプラスで適用されていても変わらない事業場が多いなという印象を持ちました。
そうすると、これらの事業所というのは、一体何をしているのだろうかという思いもあります。なかには、労災抑止がなかなかうまくできないような環境にあるとか、安全衛生に投資するお金がないといった理由も考えられるかと思いますので、長期的には、こういったメリット増減率、特にプラスで固定化されているような事業場に関する分析が必要になってくるのではないかと感じました。すみません、長くなってしまいましたが、私の発言は以上です。
○小畑座長 どうもありがとうございました。ほかは、いかがでしょうか。中益委員、お願いいたします。
○中益委員 中益です。今回、メリット制について災害防止効果があるのかどうかという論点が立てられましたが、労災保険制度は無過失責任主義を採りますので、業務災害は、使用者に過失があり、災害防止行動を取りやすいものと、使用者が無過失で、直接的な災害防止行動を取りにくいものを含むことを考える必要があるかと思っております。
このうち、過失によって発生するものは、御説明いただいたように、メリット制に一応の予防効果があるとのデータが出たことから見ても、メリット制を維持する必要があろうかと思います。というのも、保険にはモラルハザードが伴いますので、メリット制なしに、保険の仕組みを通じて業務災害に関する費用負担を分散し得ることは、業務災害発生予防に対する事業主の意識を低下させるおそれがあるからです。特に、労働契約では生命や身体の危険を労働者が専ら引き受けますので、さらに、その災害補償のコストを保険によって分散できるとなると、同業他社よりも労働者に必死に働かせたり、つまり過重労働をさせたり、あるいは安全衛生についてコストを掛けずに事業運営するのがライバル企業に差を付ける企業経営だという事業主が出現しないとは限らないように思います。
他方で、こうした直接的な業務災害防止効果を一旦置いても、やはりメリット制の効用は否定されないように思います。先ほど申しましたように、そもそも労災保険制度は無過失責任に基づいていますから、事業主が予防しようがない業務災害も含むわけです。ただ、ここで問題となるのが、労働者の生命や身体という重大な法益であることに鑑みると、個別の事業主が予防可能かどうかにかかわらず、同種事業よりも業務災害の発生が著しい事業は、そうでない事業よりも高コストで、すなわち、競争の観点からは不利な事業運営を強いられてしかるべきとも考えられます。要するに、メリット制を通じて市場原理にさらされる形で、事業の妥当性が試されるという形になっていると思われますが、これもまたメリット制の機能の1つだろうと考えます。したがって、直接的な災害防止効果にとどまらず、もう少し広い視野でメリット制の意義を考えることもできるのではないかと考えております。以上です。
○小畑座長 ありがとうございました。ほかは、いかがでしょうか。笠木委員、お願いいたします。
○笠木委員 メリット制の適用の実態や効果について資料をお示しいただきまして、ありがとうございました。全体としてメリット制にある程度の予防効果があるという御趣旨の説明だったかと思われ、酒井委員からも補足いただきまして、特に、プラスのメリット制が適用された事業場についての効果がある程度明らかに示されているというところは重要かと思いました。また、適用対象の数が、事業場の数ではごく一部なのですが、労働者数との関係では、より広い範囲をカバーしているといった御指摘も、本日、御説明いただいた中では重要な点かと思いました。
他方で、次の論点②とも関わるところで、それから、既に出てきている他の委員の御発言にもあったことを含みますが、以下の4点について留保が必要であると考えます。
まず、1点目は、現状で8割の事業場にマイナスのメリット制が適用されていて、これらの事業場については、メリット制の効果はないとは言えないということですが、必ずしも、メリット制があることによって現状が維持されているといった関係は示されていないように感じられたところです。
2点目は、本日お示しいただいたデータの内容をもう少しミクロに見ていきますと、メリット制が有し得る効果は、業種や疾病の類型、疾病の場合には疾病の類型あるいは事業場の規模によって多様とも考えられることです。事業場の規模という面では、今回の調査で、小規模な事業場が推計から除かれたとのことですが、そういったところからもまさに示されているかと思います。また、災害予防の意識や努力が効果を上げやすいケースと、そうではないケースがあって、メリット制が効果を持ちやすい業種や災害類型があるものと思われます。
3点目は、2点目と関連しますが、使用者が予防の努力をしていても避けられない労災は一定数存在すると考えられ、予防の努力にもかかわらず、結果として重要な労災が発生した事業場には大きな保険料負担が発生することとなり、こうしたメリット制の適用は、使用者から見て不公平感が強いものである上、使用者の予防の努力には影響を及ぼさないと考えられることです。
4点目、先ほどの酒井委員からの御発言のとおり、メリット制は労災かくしの誘因ともなり得るとの主張が実務家などからしばしば行われているところでありますが、こういった弊害については、データで確認することは極めて難しいと思われます。そのため、政策決定において、先ほどの事務局の御説明の中では、費用対効果の評価という観点が示されていましたが、そういった評価の中で十分に考慮されにくい懸念があるということです。このような、メリット制に伴う、データでは示されにくい事実上の負担というか、被災労働者や遺族にとってのネガティブな弊害という観点には、後のほうで議論をする使用者による不服申立てとの関係でも配慮が必要と考えますが、この点については、また後半で申し上げたいと思います。以上です。
○小畑座長 ありがとうございました。中野委員、お願いいたします。
○中野委員 第1回の研究会の際に、メリット制が適用されることによって、具体的にどの程度保険料負担が変化するのか例を示してほしいとお願いし、今回の資料2でお答えいただいたことに、まずお礼を申し上げます。
企業の規模にもよりますが、事故が発生しなかった場合には、保険料が大きく減額されるのに対し、一たび事故が発生すると、保険料が大きく増大するということが理解できました。特に死亡事故や長期の疾病は、保険料に対する影響が大きく、このことはプラスにもマイナスにも、マイナスというのは、今も話に出ておりました労災かくしなどの問題が起こり得るということですが、事業主の行動に影響を与えるだろうという印象は受けました。ただ、メリット制のプラスの効果、すなわち、事業主が労災防止に積極的に取り組むインセンティブとなるのか、また、それによって、実際にどの程度、労働災害の発生が抑制されているのかということは、今回、事務局もいろいろと工夫してデータを出してくださって、先ほど、酒井委員からも補足で説明をしていただいたところですが、やはり、評価することがなかなか難しいように思われました。
まず、適用対象に関しては、資料の2ページでは、メリット制の趣旨の1つとして、事業主間の負担の具体的公平を図ることが挙げられております。しかし、先ほど、笠木委員も御指摘されましたが、資料の6ページを見ると、事業場の数ではメリット制を適用されている事業場は4%にすぎず、労働者数で見ても過半数を僅かに上回るにすぎません。
59%の労働者がメリット制の適用下にあることを多いと評価するか、少ないと捉えるかは、これは評価の問題であろうと思われます。事業主間の負担の公平化を徹底するのであれば、メリット制の適用対象を全ての事業場に拡大するということも考えられると思いますが、現行法が一定規模以上の継続事業や有期事業に適用対象を限定しているのは、やはり、小規模の事業主はメリット制による保険料の増減の影響、特に保険料の増額時の負担に耐えられないという理由なのだろうかと推測いたします。
また、同じく資料の2ページでは、メリット制の趣旨のもう1つとして、事業主の災害防止努力の促進が挙げられています。この点については、先ほども述べたように、やはり、メリット制が実際にどの程度の災害防止効果をもたらしているのかを評価することが難しいように思われました。資料の15ページ以降でお示しいただいたデータを見ると、適用事業場の約半数は、もともとマイナス40%の保険料を適用されており、被災者がおらず、それ以上災害防止効果を出すことができないということです。このことをどう評価するかですが、過去の、これまでのメリット制には確かに災害防止の意味があったかもしれないが、企業における災害防止努力は既に頂点に達していて、今日においては、メリット制の役割は既に終了していると評価することもできるのではないか。つまり、もしメリット制をなくしたとしても、これらの現在マイナス40%の保険料を適用されている企業が、急に災害防止努力を怠って、労働災害が増加するというようなことは起こらないのではないかとも思われます。
資料2ページの参考という部分では、有期事業についてメリット制を創設した際に、継続事業についてメリット制の効用が大きかったことが背景として述べられています。当時、どのような検証がなされてこのような評価をしていたのかは分かりませんが、いわゆる事故性の災害が中心であった時代には、事業主に災害防止に取り組む経済的インセンティブを与える意義は大きかったと思われ、事業主も災害防止に取り組みやすかっただろうと思われます。しかし、この後の論点にも関わりますが、今日、問題となっている脳・心臓疾患や精神障害は、労働者側の要因も発症に関わり、事業主の努力による発生防止には限界があります。そのような職業病にメリット制を適用することには疑問もあり得るところで、本日の机上配布で頂いているように、実務側からは、いろいろと反対や懸念も示されているところです。
以上のように考えると、メリット制は今日においてはその役割を終えたものとして廃止をし、労働災害の発生防止については、保険の外の事業、社会復帰促進等事業や労働安全衛生に係る監督行政の徹底によって確保するというのも1つの考え方ではないかと思います。私からは以上です。
○小畑座長 ありがとうございました。ほかは、いかがでしょうか。坂井先生、お願いいたします。
○坂井委員 発言をさせてもらいます。今日、配布、説明していただいた資料のうち、例えば資料の5ページで紹介されているメリット制の適用事業場におけるメリット増減率の状況を見ていると、同種の事業に属する各種の事業であっても、業務災害の発生状況は多様だということが、まず理解できます。また、資料の7ページで紹介されているメリット増減率の遷移を見てみると、この発生状況のばらつきが、年度ごとの偶然の変動とは言いきれず、個々の事業に固有の事情を一定程度反映したものなのであろうということも見受けられます。
このような実情を前提とすると、業種別の労災保険率のみによって、要するに、メリット制を適用せずに業種別の労災保険率のみによって保険料を算定するという場合には、同一の業種の中で、業務災害のリスクが低い事業主から、これが高い事業主への再分配、すなわち、経済的な利益の移転が生じることになるのだろうと思います。これは先ほどの中益委員の御指摘と重なる認識かと思います。このことをどう評価するかを考えてみますと、まず、労災保険に内在する論理からは、このような再分配は正当化されないと考えられますし、また、労働政策とは別の、例えば産業政策の観点から考えてみても、現状では、このような再分配は要請されていないように思われます。
そうすると、この資料の中でも説明していただいているメリット制の2つの趣旨のうち、個々の事業主の負担の具体的公平性を図ることとの関係では、メリット制が果たす役割は、いまだ軽視するべきではないと思います。
それとの関係で、事業所数でいったら適用事業所は限られているという問題意識もここまで示されてきたところですが、事業主間の公平の観点から、メリット制が果たす役割は小さくないという立場からは、比較的、規模の小さい事業であっても、取り分け安全衛生や労災予防に関する取組を積極的にしているものについては、メリット制の恩恵を享受し得る仕組みがあってもよいという見解も出てき得るところかと思います。もちろん、余りに小規模な事業にメリット制を適用してしまうと、偶発的な要素によって、労災保険率の変動が生じてしまうという問題も理解できるのですが、例えば、事業規模に関する現行の要件を下回る事業についても、安全衛生、労災予防の取組に関する所定の要件を充足する場合、しっかりした取組をしている場合は、当該事業での労働災害の発生状況は、偶発的な事情のみによるのではなく、そういった労災予防、安全衛生の取組の成果を反映したものと位置付けて、メリット制の適用を認めるということも検討に値するのではないかと考えているところです。私からは以上です。
○小畑座長 ありがとうございました。水島委員、お願いいたします。
○水島委員 水島です。先生方の御発言と重なるところが多いですが、私からも一言述べさせていただきます。まず、この研究会でも、メリット制の検証がこれまでなされていない、あるいは効果に懐疑的な御意見がありましたけれども、今回、このように検証し、御説明を頂きありがとうございました。
メリット制の目的としては、事業主の負担の公平性あるいは事業主の災害防止の努力の推進があると御説明にもありましたが、災害防止努力という目的は一定程度達成され、そして、事業主の負担の具体的公平性も、結果として一定程度達成されているように思いました。
適用対象の合理性については、これまでの委員の御発言にもありましたように、多様な見方があると思いますけれども、私としては、小規模事業場に適用することによる個々の事業への影響の大きさを考えると、現行の適用対象には一定の合理性があり、見直しを必要とするものではないと考えます。現行の労災保険制度の中で、いかに負担の具体的公平性を図るかというところで、バランスの取れた1つの仕組みを提示できているのではないかと思います。
中益委員、笠木委員からも御発言がありましたが、メリット制が災害防止に効果があるのか、あるいは災害防止努力という目的について、疾病等の種類が変わってきたことを踏まえると、私も、非常に悩ましく思っております。資料の3、4ページに具体的事例を挙げて説明いただいていますが、例えば脳疾患を発症した場合に、入院、休業の期間が非常に長くなると給付が非常に大きなものになることがわかりました。こうした脳・心疾患事例は、メリット制を創設した当初に想定されていなかったと思いますし、コンメンタール等で説明される作業工程、機械設備あるいは作業環境の良否といったものとも直接関連するものでないように思われ、どう考えるべきかを悩んでおりました。
無過失のものも含めて市場原理を通じて事業の妥当性を図るといった御趣旨の中益委員の御発言は、なるほどと思いました。災害防止責任というと、使用者の過失が介在するものと使用者が防ぎようのないものとを分別したくなりますが、実際に業務上とされたものを見ても、使用者の過失があったかではっきりと分かれるものではありません。もちろん、明らかに使用者に過失があるものもありますが、事業場内で業務に際して生じた災害から、使用者が完全に無過失であるものを切り出すことは、労災保険法上、必要ないですし、すべきでないと考えます。
このように考えると、メリット制で、災害防止努力という目的が達成されているか、あるいは災害防止に効果があるのかといったときに、メリット制を維持するために必要かという意味で、効果を測るべきとは思いますが、メリット制における災害防止効果を追求しすぎると、議論が混乱するのではないかと思います。メリット制に一定の災害防止効果が認められればよくて、また、先ほど中野委員からもお話がありましたように、労災保険のメリット制のみで災害防止を達成できるものではありませんので、メリット制を維持するのに妥当な程度で効果があることを言えればいいのかなと思っております。以上です。
○小畑座長 ありがとうございました。ほかは、いかがでしょうか。地神委員、お願いいたします。
○地神委員 私自身は、今までの話を伺っておりまして、やはりメリット制自体は維持しつつ、一定の調整が必要だろうと思っております。維持すべきと考える理由については、一番最初に中益委員から私の考えとほぼほぼ重複する御発言がありましたので、省略をさせていただきます。
一方で、調整が必要と考える部分ですが、お示しいただいた論点に直接的にお答えするものではないかもしれないのですが触れさせていただきます。増減率40%の部分について、不断に見直しが必要なのではないかということを指摘させていただきたいと思います。理由の1つは、これまでにも議論があったように、災害発生の防止の努力というものに、ある程度、限界があるのではないかという点です。産業保健の進展や安衛法、安全衛生規則などが充実することにより、現実に労災事故や給付というものは年々減少しているところであり、事業主の努力によって災害発生を防止できる範囲が狭まっている。これは御指摘のとおりかと思います。そうした段階において、この40%というものをいつまで維持するのかという点、それは根拠も含めて検討が必要だろうと思います。
もう一点は、これも既に御指摘があった部分ですが、労災かくしの問題です。メリット制があることにより、労災かくしが現実に発生しているという指摘は無視できないところです。もっとも、労災かくしの理由は、労災保険料率のほかにも、安全衛生法上の取締りが入る、入札停止を受ける、社会的評価の低下など、多様な理由があるかと思いますので、そのことのみをもってメリット制を廃止してしまうという決定的な根拠としては弱いと思っています。
ただし、実際上、この40%という数字は気になるところで、資料の3ページなどにあるように、やはり1つの事故で数百万円という差が発生する。これに対し、死傷病報告を提出しない場合の罰金額が、いつから変わっていないのかは分からないところですが、50万円以下であると。現実的なところを見ると、労災かくしをしたほうが割に合うという、非常に問題のある形になってしまっているのは事実です。
これまでに議論されたメリット制の意義をいかしつつ弊害を除くためには、この罰則との関係と監督の問題とともに、バランスの取れた増減率の再検討が必要なのではないかと考えております。私からは以上です。
○小畑座長 ありがとうございました。ほかは、ありますか。よろしいでしょうか。小西委員、お願いいたします。
○小西委員 小西です。よろしくお願いいたします。メリット制について、災害防止の効果があるかということについてデータをお示しいただきまして、どうもありがとうございました。もう既に各委員からのお話と重なるところですが、少しだけお話させていただきたいと思います。
今回、こういうような形で調査していただいて、一定のデータに基づく検証がなされたということで、非常に勉強になったところです。併せて、このメリット制による災害防止の効果は非常に重要なポイントかと思いますので、引き続き、この点についてはデータを収集していただいて、現段階では、その限界、限定があったというお話もあったところですので、そこを更に詳細にというか、もし調べることができるのであれば、今後、引き続き調べていっていただきたいと思っております。事業規模や従業員数などをそろえて見ていくといったところも含めて、今後も引き続き調べていっていただければと思っております。
そういうことで、メリット制を政策的にどう考えていくかは、そういったデータから導かれていることと併せてですが、既にお話があったところですが、メリット制と事業主の労災補償責任との関係、あとは、労災かくしの問題も指摘されていると伺っておりますので、そういったデータからは捉えることができない、性質が異なる事柄については、引き続きしっかりとした議論が必要なのではないかと考えている次第です。私からは以上です。
○小畑座長 ありがとうございました。これで、全委員の御意見が出そろったかと思います。全体としては、複数の留保が付くけれども、災害防止努力に関して、メリット制というのは一定の効果があるという御意見の先生が多いと。しかし、それは評価するのが少し難しいのではないかという御意見も他方で出たところではあります。また、適用の対象に関しては、広げていくという可能性を考えてもよいのではないかという御意見と、このまま維持するということでよいのではないかという御意見の両方が出たとまとめていけるかなと思います。事務局においても、また整理などしていただけたらと思います。何か補足はありませんか。特にないでしょうか。ありがとうございます。それでは、こちらの論点については以上としたいと存じます。
次の論点に進みます。事務局のほうから御説明をお願いしたいと思います。
○労災管理課長補佐(企画担当) 御説明いたします。論点②の説明の前に、22ページを御覧ください。先ほど、団体からの御意見ということで、皆様にお配りしているとお伝えしたこちらの資料ですが、いわゆる「あんしん財団事件」は、労災保険法における事業主の審査請求や取消訴訟での適格性が争われた事件です。その際に、メリット制が労働者保護に与える影響といったことで存否に関わる御意見を頂いておりまして、こちらの資料をお示ししておりました。御紹介が漏れておりました。申し訳ございません。
それでは、論点②の御説明に移ります。24ページです。メリットの算定基礎の除外に係る現行の取扱いについてです。2ページでも御紹介しましたけれども、メリット制の趣旨・目的は、事業主間の公平性の確保と災害防止努力の促進です。しかしながら、ある種の疾病が特定の状況の下で発症したという場合においては、その疾病に係る保険給付をメリット収支率の算定対象に含めることで、メリット制の趣旨・目的をかえって実現できないという場合があります。労働保険徴収法などでは、算定対象からこういった給付について除外するといったことを定めております。
具体的には次のページです。特定疾病に罹患した者に係る保険給付等については、メリット制の分子に算入しないという取扱いを示しております。この「特定疾病にかかった者」とは、このページの表の左の欄に掲げております疾病に罹患された方が、この真ん中の事業に従事した場合、かつ、右の欄に記載するような就労状況にあったという場合です。この取扱いについては、24ページの参考部分の2つ目の○に記載しておりますけれども、いわゆる転々労働者の方たちが遅発性の職業疾病に罹患した場合に、そうした疾病の発生の責任について、最終事業場の事業主にのみ帰属させることは不合理であるという考えに基づき、昭和55年の法改正で導入されているものです。転々労働を常態とする業態、業種について、こうした転々労働者に発生する疾病について特定の就業状況であった場合にのみ除外対象としているもので、特定の疾病にかかった労働者を一律に算定の対象から除外しているものではないということに御留意いただければと思います。
26ページです。こちらは業務上疾病に係る業務起因性についてです。メリット収支率は、被災労働者の業務災害に対する労災保険給付を前提として算定されます。このとき、当然のことながら、保険給付については、業務と傷病との間に因果関係、すなわち業務起因性が認められるということが前提となってまいります。傷病のうち、疾病に係る業務起因性の判断につきましては、業務起因性の基本的考え方に記載しております3要件が認められることが必要です。業務起因性の判断に際しまして、業務上の有害因子、ここでは有毒な化学物質あるいは長時間労働なのですが、こういったものが認められる一方で、業務以外の要因が存在するという場合については、業務上の有害因子が相対的な有力な原因であるという場合に限って、業務起因性が認められるということになってまいります。
次のページです。こうした競合的な要因がある場合、どういった判断をしていくかということです。こちらは脳・心臓疾患の関係です。脳梗塞や心筋梗塞といった病気については、いわゆる血管病変によって生じるものです。血管病変自体は、加齢ですとか、長年の生活習慣などの様々な要因、御本人の体質といったものが絡みあった上で、長い年月の間で発症、悪化していくというもので、こうした脳疾患・心臓疾患といったものは業務災害に限らず広く一般的に見られる疾患です。しかしながら、業務による過重な負担が掛かることで、自然経過を超えてこうした血管病変等が著しく増悪するという場合に、脳疾患・心疾患が発症するといったことがあります。このため、業務が過重なものであるかといったことを判断するための基準が、労働基準局長通知によって定められておりまして、こちらがそのフローです。また、この黄色い表の下、※書きにありますように、過重な業務だったかどうかの判断は、同種労働者にとって特に過重かという観点から判断をされております。下の表の参考にありますけれども、認定率については近年3分の1程度で推移をしております。
28ページです。こちらは精神障害事案の関係です。上のグレーの四角部分、1つ目の○です。精神障害については、発病を促すストレス、これは過重な業務や生活環境の変化などですけれども、これと病気への脆さ、脆弱性と言いますけれども、鬱病や他の精神疾患の既往、あるいはアルコール依存をお持ちといったことですが、こうしたストレスと脆弱性といったものが作用し合って発病、再発に至ると言われております。こちらは「ストレス脆弱性モデル」と呼称しております。
2つ目の○ですけれども、精神障害の業務起因性の判断にあっても、労働基準局長通知による認定のメルクマールといったものが設けられております。具体的な判断フローについては、このページにあるとおりです。また、この心理的負荷の強度というのは、被災労働者と同種の労働者を基準に判断されることになっております。参考にありますとおり、精神障害についても、認定率は近年3分の1程度で推移をしています。
24ページでもお示しをしましたけれども、一定の条件の下に特定の疾病にかかった者に係る保険給付等については、メリット収支率の算定から除外する取扱いとしております。これは、疾病の発生を特定の事業主に帰属させることが適当でない、言わば災害が発生した事業場を医学的に特定することが困難であるという場合です。特定の事業主の保険料に反映させることが、かえって公平でないといった場合に限った、特殊な取扱いと言えると思っております。
現在、メリットの対象から除外しております疾病については、長期間、有害因子にばく露し発症した疾病で、転々労働者にとって、最終ばく露事業場での業務従事期間等を加味すれば、最終ばく露事業場での業務が疾病の発症に相対的に有力な発症原因とは言えないということも踏まえた上で、最終ばく露事業場のメリットの算入には入れないという取扱いとしているところです。一方で、今、御説明しました脳疾患・心臓疾患あるいは精神障害については、ある事業場での業務と発症との因果関係について判断基準が設けられているところで、業務が相対的に有力な発症要因となっているのか判断しているといったことについて、御留意いただければと思っております。
29ページを御覧ください。高齢者の労災についてです。近年、死傷病報告にあります休業4日以上の死傷者数のうち、60歳以上の労働者の占める割合は、真ん中の棒グラフですけれども、増加傾向にあります。また、その右隣、いわゆる千人率ですけれども、男女ともに最小となる25~29歳の範囲に比べますと、65~69歳の範囲は、男性で2倍、女性で約4倍と相対的に高くなっていることが見て取れます。
次のページの円グラフを御覧ください。高齢の労働者の産業別の構成比を見てまいりますと、全ての労働者と比較して大きな差異はないというところで、特定の災害発生率が高い業種に偏っているものではないといったことが見て取れます。
31ページです。こちらは外国人の労災についてです。ここで言う外国人とは、在留資格にかかわらない、国籍としての外国人です。左側の棒グラフですが、雇用者全体に占める外国人の割合は3.6%で、その隣の死傷病報告における休業4日以上の死傷者数の割合でいきますと、4.2%となっております。また、千人率で見ますと、全ての労働者よりもやや高い程度といったことが見て取れます。高齢者と比較すると、全ての労働者と比べてもそこまで大きな差異はない、やや高いといったことが見て取れるかと思っております。
32ページです。外国人労働者については、全ての労働者と比べますと、第一次産業や建設業といった比較的災害発生率が高い業種で働かれている割合が高いということが見て取れます。また、次の33ページを御覧ください。外国人労働者については、日本人労働者に比べて、若年層に偏りがあるといったことが見て取れるかと思います。
また、本論点の冒頭にも挙げたとおりですが、メリット制の趣旨・目的に立ち返りますと、メリット収支率の算定対象からある保険給付を除外するといったとき、その保険給付を算定対象とすることが事業主間の公平性の確保の支障となっているのか否か、その保険給付を算定対象から除くことで、事業主の自主的な災害防止努力を損なうことにならないかといったことを考える必要があるかと考えております。こうした観点も踏まえた上で、御議論いただければと考えております。論点②の説明は以上です。
○小畑座長 ありがとうございました。それでは、資料2の13ページにあります論点②のメリット制の算定対象につきまして御意見を伺えればと思います。いかがでしょうか。水島委員、お願いいたします。
○水島委員 24ページの特定疾病の場合の取扱いについて御説明いただき理解しました。公平性を図るために必要な、特殊な取扱いと理解しましたが、特定疾病は一度に決まったのか、あるいは、対象が追加されたのであれば、どのような場合に特定疾病に追加されたのか、お聞かせいただければと思います。これは質問です。
高齢者や外国人労働者をメリット収支率の算定対象外とすることについてです。高齢者については、確かに最近労災発生率が高くリスクが高いといえますし、年齢という客観的な基準で対象を決めることができますが、外国人は国籍としての外国人という説明でしたけれども、国籍で区別することが、そもそも適切かは疑問です。日本に長く居住して日本人と同様の生活を送っている外国人の方もいらっしゃいますので、国籍という基準設定自体に違和感がありました。外国人の方が入国して間もなく、危険な業務に従事されているケースがある、あるいは、文化や風習、言語の問題等もあって事故が発生している、そうした問題意識からこのような論点を設定されたと推測し、論点設定自体は理解します。以上です。
○小畑座長 ありがとうございます。御質問についてよろしいですか。お願いいたします。
○労災管理課長 また確認して御説明させていただきたいと思います。
○小畑座長 ありがとうございました。それでは、次に中野委員、お願いいたします。
○中野委員 論点②は、論点①について、メリット制には今日においても意義があり、維持すべきであるという結論を出すことを前提とした議論であろうかと思われます。私自身は、先ほど述べましたように、メリット制を維持すべきかについては疑問を持っておりますが、仮にそのような前提に立つならば、まず論点②の1点目については、事業主が従事させた業務との相当因果関係が認められる限り、脳・心臓疾患や精神障害についてもメリット制の適用対象から外す理由はないだろうと考えます。資料で説明されている特定疾病は、先ほども御説明がありましたように、日雇労働者など複数の事業場を転々としながら働く者が発症する疾病で、最後に就労した事業場における業務と疾病との相当因果関係を認めることが困難なものを、メリット制の算定対象から除外するものです。すなわち、複数の事業場での業務が合わさって疾病を発生させているが、特定の事業場の業務との間では相当因果関係を認めることができないという場合に、労働者に労災保険の保護を与えると同時に、一方で、特定の事業主に労働基準法上の災害補償責任が発生しているとは認められないことから、メリット制の算定対象から除外するというものだと理解しました。
これと同様の考え方は、脳・心臓疾患や精神障害についても、2020年改正で導入された複数業務要因災害が認められる場合には、既に採られていると理解しております。メリット制を維持することを前提とするのであれば、複数業務要因災害以外の場合、すなわち、特定の事業主の下での業務と脳・心臓疾患や精神障害の発症との間に相当因果関係が認められる場合には、メリット制の算定対象から除外することは正当化できないと思われます。
論点②の2点目についても、高齢者や外国人は、確かに加齢に伴う心身の能力の低下や、言語上のハードルにより、労働災害に遭うリスクが高く、脆弱性が高いグループであることは推測されます。他方で、そのような脆弱性が高い者を就労させるならば、その特性に沿った災害防止の措置を事業主は採るべきであると考えられますので、メリット制による災害防止の促進、その効果があるという立場を取るならば、これらのグループをメリット制の適用対象から除外する理由はないように思われます。
ただし、外国人の雇用は事業主の任意ですけれども、高齢者や、また、今回の資料には出ておりませんが、障害者については、雇用の促進が国の政策として進められており、企業に対して雇用や就業の機会の確保が法律で義務付けられています。
そして、障害者については、平成22年の名古屋高裁の判決で、事業主が身体障害者であることを前提として業務に従事させ、その基礎疾病が悪化して災害が発生したときには、脳・心臓疾患の業務起因性は当該労働者本人を基準として判断すべきという判断が示されています。この判決の立場に立つと、障害者にとっては、疾病の業務起因性が認められやすくなり、労災保険からの保護が厚くなる一方で、障害者の雇用に取り組む事業主は、メリット制を通じて重い保険料負担が課されるリスクを負うことになります。同様の問題は、精神障害者がその基礎疾病を悪化させて精神障害を発症したという場合にも生じ得ます。そうすると、高齢者や障害者については、雇用促進施策との一貫性を持たせるために、メリット制の適用について何らかの考慮をするということは考えられるのではないかと思いました。
あまり議論が一貫していなくて申し訳ないですけれども、以上です。
○小畑座長 ありがとうございました。続きまして、酒井委員、お願いいたします。
○酒井委員 論点②の2点目について発言させていただきます。先ほどもありましたけれども、あくまでメリット制を維持することが前提となった上での議論かと思いますが、まず、ここでデータをお示しいただきました高齢者と外国人のうち、高齢者については加齢に伴って労災リスクが高まるのは明らかと思いますが、外国人のほうは必ずしも労災リスクが高いとは限らないのではないか。特に、外国人と言いましても、様々な在留資格がありますし、それらによっても違うかと思いますので、外国人に関しては一律に議論できないと思いますので、以下の私の主張は高齢者のみに議論を絞りたいと思います。
私は法律的なことは分かっておりませんけれども、特定疾病をメリット制の算定の対象外とするという論理は、高齢者に関しては、ある面では当てはまりそうだけれども、ある面では当てはまらないのかなという印象を持って聞いておりました。高齢者のある種の労災に関して、その事業所だけに責任を負わせられるとは限らないという点では似ているところもあるのかなと思う一方で、当該事業所における業務に起因するかどうかについては、高齢者に関しては比較的明らかなのではないかと考えます。したがって、特定疾病と同じように高齢者を算定対象から外すというのは難しいというか、慎重にならなければいけないことだと考えます。高齢者に対する安全配慮はもちろん重要ですし、そのインセンティブとしてのメリット制を外してしまっていいのかと考えます。
ただ、一方で、同じ業務負荷であっても、高齢者と壮年層では、労災につながる確率が異なると考えるのも妥当かと思います。こうなると、高齢者を雇うことが、そもそも忌避される可能性がある。先ほどもありましたけれども、政府が積極的に高齢者雇用を推進しており、更には、雇用を確保すべき年齢も引き上げる傾向にあるわけです。その中で、こういった高齢者を雇うことに伴うペナルティをどう考えるか、政策的な整合性として説明が付くのかというところは思うところです。
もちろん、実際に高齢者を雇うことでメリット制による保険料率が高くなった結果として、どれほど雇い控えが生じるかは定かではない。というか、そんなに大きくないのではないかと私も思います。現下は特に人手不足という状況にありますので、どうであれ、多分、事業所は高齢者を雇う傾向が強いのではないかと思いますけれども、雇う側にとってどのようにこの制度が見えるかということです。やはり、高齢者の促進を政府がしているのに、雇うとなぜか労災保険料率が上がっていくというようなことが、事業所にとってどのように見えるかという観点は重要かと思います。
いろいろと述べてしまって申し訳ないですけれども、自身の考えを少しまとめると、やはり高齢者を算定対象から外すということは難しいのではないかと考える一方で、自然と労災リスクが高くなる高齢者を、ほかの年齢層と同じように扱って、メリット制の料率を算定してしまってよいのかという思いもあります。したがって、やや両者の折衷的な案になりますけれども、メリット制の対象から外すわけではないけれども、メリット制の料率の算定の際に、高齢者の給付については調整する、つまり幾らか割り引いて計算するということもあるのではないかと思います。高齢者の労災について、あるいは先ほど障害者等々の話も出てきましたけれども、最低限でも、これ以上メリット制を厳しくするということはあってはならないと考える次第です。以上です。
○小畑座長 ありがとうございました。中益委員、お願いいたします。
○中益委員 中益でございます。メリット制から、ある疾病や対象者を除外することは、事業主の業務防止行動から漏れることを意味すると考えますので、やはり慎重であるべきかと思います。これを前提として、疾病に関しては中野委員と同じ考えですので省略し、特に対象者の点について2点述べさせていただきます。
第1に、第1回の研究会では、被災率が高いであろう主体が、保険料率を引き上げないために、採用において避けられかねないとの点が指摘されたところですが、この点に関しましては、先ほども申しましたように、ここで問題となっているのが労働者の生命や身体という重大な法益ですから、採用行動をゆがませかねないという問題と同じレベルでは論じられないのではないかと考えます。先ほども申しましたように、メリット制がなければ、保険に伴いがちなモラルハザードを現実のものとし、災害予防行動を取らないほうがよいかのようなゆがんだインセンティブを与えるおそれがあると思われるからです。メリット制がなくても予防行動は変わらないのではないかとの御意見もあったところですが、労災かくしがあるということは、事業主の中に保険料負担、つまり、コストを意識しているものがあるということを表しているように思いますので、メリット制を変えれば事業主の行動が変わる、特にコストの掛かる予防措置を採らなくなるということは、あり得そうに思います。この弊害と、指摘されたような採用におけるゆがんだインセンティブのおそれを比較すると、やはり労働者の生命や身体に関するリスクを下げる方向で、つまり、災害防止行動に対する弊害を取り除けるように制度設計をするほうが、より重要ではないかと考えております。
また、ある応募者について、この人を採用したら業務災害が生じかねないのではないかとの懸念から採用しないということは、必ずしも不適当とは言えないと思いますが、こうした採用における判断と、ある属性をもって事業災害のリスクを感じ取り、コスト高になるだろうということから採用を避けるという採用判断とは、実際は区別するのが難しいのではないかという印象もあります。
第2に被災率が高いであろう主体を積極採用する企業が、保険料率が高くなりがちで、コスト高になりかねないという点も指摘がありましたが、確かにこれは難しい問題と思いますけれども、ここも、業務災害を予防し生命侵害傷病を避けることの重要性は看過し得ないように思います。つまり、被災率が高いであろう主体を積極採用する企業に対しては、業務災害が発生しても保険料率に影響がないというアプローチよりは、被災率が高いだろう主体が就労しても業務災害を発生させないようにするというアプローチのほうが、政策的にはより適切であるように思います。例えば、安全衛生の向上策を採る、過重労働等を避けるべく労働条件の改善を図るような制度設計にする、被災率が高いであろう主体に適した仕事を選択できるようなマッチングの問題として考えるとかで、こうした課題の解決に取り組むべきと思います。
したがって、これらの問題をメリット制の是非に持ち込むことが本当に妥当かどうかというと、個人的には若干の疑問が残るところです。以上です。
○小畑座長 ありがとうございました。ほかはいかがでしょうか。お願いいたします。
○労災管理課長 先ほど水島委員から頂いた御質問について確認できましたので御紹介します。資料の23、24ページで特定疾病の紹介をしましたが、上の3つ、非災害性腰痛、振動障害、じん肺症については、制度ができた当初からあります。その後追加されたものとして、その下の石綿が平成18年度、それから、一番下の騒音性難聴については平成24年度からということで、一斉に追加されたわけではなく順次追加されているということです。確認できましたので御説明しました。
○小畑座長 ありがとうございます。水島委員、今コメントはいいですか。
○水島委員 ありがとうございます。平成18年のアスベスト追加は何となく想像できるのですが、平成24年にどういう議論や要請があって騒音性難聴が追加されたのかが、もし分かりましたら、又の機会で結構ですので、お願いできればと思います。
○小畑座長 ありがとうございました。では、先ほど手が挙がりました笠木委員からお願いいたします。
○笠木委員 論点②については、論点①についてどう考えるかというところとも密接に結び付きますので、かなり委員の間で見解が分かれるところでもあるかと思います。私自身は、論点①で述べましたこと、つまり、メリット制の効果について、多くの留保を付して理解するべきであるように思われること、それから、メリット制が有し得る弊害といったことを踏まえますと、メリット制の算定対象を、予防の効果を上げやすいあるいは公平性の観点から、問題が小さいと思われる場面に限定していくという方向性での議論が必要ではないかと考えております。
これは、これまでのメリット制算定対象外の疾病をめぐる議論とは異なるロジック、つまり、業務起因性を特定の事業者との関係で特定できるかどうかという議論とは異なる観点からの適用対象の限定をしていくという考え方になろうかと思います。具体的には、まず、脳・心臓疾患や精神疾患については、今、説明がありましたように、発生機序が極めて複雑で、労働者側の事情も疾病の発生発展に影響を及ぼしますし、労災認定基準も日々複雑化しておりまして、労災予防のために使用者に求められる努力の具体的内容は非常に多様なものとなっております。また、認定基準においては同一労働者基準が採られてはおりますけれども、実際の認定や裁判所の判断では、先ほど中野委員からも御紹介がありましたように、各労働者の個別事情が、かなり広く考慮される傾向にあるように思われます。こういった中で、使用者が一通りの予防努力をしていても、結果として労災と認定される疾病が生じるケースも十分に想定が可能でありまして、メリット制の適用が使用者にとって不公平、あるいは予防促進という目的に必ずしも資さないと思われるケースが出てきているのではないかとも思っております。また、以下は推測にすぎませんけれども、こうした複雑な発生機序をたどる疾病の労災認定によるメリット制の適用が、この後半で論点となるメリット制に対する使用者の不服申立ての対象ともなりやすいのではないかということも想像できるところです。
次に、通常想定されている労働者に比較して、より大きな脆弱性を有すると思われる労働者についても、メリット制の算定対象から外す可能性について検討すべきと考えております。本日、御紹介いただいた中では特に高齢者が当たりまして、ほかに、既に中野委員から御指摘のあったとおり、障害を持つ労働者についても同様の検討の余地があると考えます。特に、一定の脆弱性を抱えつつも就労する労働者について、国の雇用政策によって就労が促進されている中で、業務により傷病が発生した場合には、できる限り労災保険給付が行われることが望ましい一方で、このことが、これらの労働者を雇用した使用者に結果的に重い保険料負担をもたらすということが、公平性を欠くように思われるためであります。
他方で、既に水島委員からも御指摘がありましたけれども、外国人については、外国籍であるということに結び付いた特別な脆弱性ということは考えにくいと思いますし、政策的に雇用が促進されている他の類型の労働者とは異なり、現段階では特別な取扱いは考える必要がないと考えます。
なお、一部の疾病や労働者について、メリット制の適用を除外しようという考えについては、そうした疾病や労働者について予防の努力が不要であるという考え方やモラルハザードにつながるという懸念があり、この懸念は十分に理解できますし、一定の配慮が必要であると考えます。ただ、現状でも、メリット制は、ごく一部の事業場、6割弱の労働者との関係でしか適用されておらず、あくまで一定の規模以上の事業場について、メリット制による予防の効果が得られやすい、あるいは、メリット制の適用に意味があるというような観点から、多くの政策的考慮を踏まえつつ、予防促進の1つの手段として適用されているものと考えております。そのため、メリット制の適用がないということは、使用者の予防努力が必要でないということは意味しないと説明することは十分に可能であると考えております。同時に、高齢者や障害者のような労災の危険が特に大きな労働者については、ガイドラインの策定や各種事業を通じて既に特別な対応も行われつつあり、そうした対応をより強化していくことが重要であって、そういった努力が強化されることは、メリット制の適用を外すこととは理論的には全く矛盾しないと考えます。
また、日本では過失責任については労災認定と同時に民事損害賠償の請求も可能でありまして、使用者の安全配慮義務については、近年、厳格に捉えられる傾向にあるということにも留意すべきと考えます。以上です。
○小畑座長 ありがとうございました。続きまして、坂井委員、お願いします。
○坂井委員 では、まず論点②の前段部分、疾病の特徴とメリット制の関係ですけれども、結論としては、私は、脳・心臓疾患や精神疾患を算定対象外にすべきではないという考えであります。この問題については、既にいずれも言及されている点ですけれども、2つの観点から検討の余地があるのではないかと思います。
第1に、脳・心臓疾患や精神疾患の特徴のうち、個体要因や私生活上の事情といったものがその発症に寄与しているという事情がありますけれども、これについてはメリット制の関係で重視すべきではないと考えております。というのは、個体要因や私生活上の事情の影響は、確かに脳・心臓疾患や精神疾患との関係で特に顕著に現れる問題ではありますが、本日の資料の26ページの説明にもありますように、それ以外の典型的な職業病であっても、やはり業務外の要因との競合というのはあり得るところであります。
その上で、資料26~28ページで整理されている考え方によって、業務起因性が肯定される傷病の範囲を確定して、そのような傷病について、災害補償に関する使用者の責任を基礎として、事業主の保険料負担による補償給付を行っているのだというところかと思います。このように理解すると、特に個体要因や私生活上の事情が関与しているという理由によって、脳・心臓疾患や精神疾患をメリット収支率の対象外とすべきではないという考えに至りました。
着眼点の第2としましては、業務遂行に関して高度の裁量を持つ労働者が増加してくると、その過重労働の予防に関する使用者の関与の余地が縮小してしまうという事情が他方であるかと思います。このような事情があるとすると、メリット制の趣旨との関係では、これらの疾患に関する給付額を労災保険率に反映させることは、少なくとも自主的な災害防止の努力を促進しようとするという趣旨とは整合しないという主張に結び付くと思います。また、災害補償の責任に関する理解、立場によってはという留保は付きますが、個々の事業主の負担の具体的公平性を図るために必要ではないといった主張もあり得るところかと思います。
もっとも、私としては、現状では過重労働の予防について事業主が果たし得る役割はいまだに大きいと考えておりますので、結論としては、これらの疾患をメリット制の算定対象から除外すべきではないという考え方であります。他方で、今後の中長期的な課題としましては、働き方に関する多様化の進展というものを注視しつつ、このような観点からメリット制との関係で、脳・心臓疾患、精神疾患の位置付けを検証していくということには意義があると考えているところであります。
次は、論点②の後段部分です。労働者の属性とメリット制との関係ですけれども、この課題についても、私は、高齢者・外国人をメリット収支率の算定対象外とすべきではないと考えております。ここで注目している高齢者・外国人は、いわゆるダイバーシティマネジメントの観点から活躍が期待されている人材という特徴も持っておりますので、この点に着目して状況を整理してみたいと思います。
ダイバーシティマネジメントをめぐる議論では、労働力人口の減少を受けて、これまで基幹的な労働力と位置付けられてきた労働者だけでは、各企業が必要とする人材を確保できないという状況の中で、ここで問題となっている高齢者・外国人のほか、障害者や育児・介護を担う労働者なども含めて、その属性に応じた労務管理上の特別な負担がある、すなわち金銭が掛かる、時間が掛かる、手間が掛かるということは当然の前提として、しかし、これらの人たちの活躍が必要だから、その活躍ができる環境を整備しようという問題意識があるのだろうと認識をしております。もう少し具体的に言えば、障害者に関しては合理的な配慮の提供や、家庭責任を負う労働者に関しては育児・介護への配慮といった負担を企業が負いつつも、これらの労働者の活躍を促すというのが、現在の労働市場の状況になっているのだと思います。
そうすると、労災保険における高齢者・外国人の取扱いに関しましても、これらの労働者について、メリット制を介した労災保険料の負担を軽減するという方法で雇用促進を図るのではなくて、労働災害の予防・補償に関する責任を個々の使用者にしっかりと果たしてもらいつつ、その活躍を促すというような方向が望ましいのではないかと考えております。私からは以上です。
○小畑座長 ありがとうございました。ほかに御意見はいかがでしょうか。
○地神委員 現在、特定の疾病を算定対象外にするかどうかという点について、ここでは精神障害を想定しながら議論してみたいと思います。これまでに、特に中野委員や坂井委員から、かなり理論的に、これを算定外とするべきではないという御説明があったかと思いますが、実際上のところをもう少し見てみると、精神障害に関しては、その性質上、業務起因性判断はかなり微妙で、ここは恐らく、どの委員も共有しているところかと思います。加えて認定にかけることができるコストというところにも限界があります。
そのようなことを考えると、たとえ業務上であると行政で判断したとしても、ある程度微妙なケースが給付対象に含まれてしまうことはやむを得ない、これは制度が想定済みのことではないかと考えられます。この点で、精神障害については、個別の事業主ではなく事業主全体でそのコストを引き受ける、メリット制の算定対象から外すということが、公平にかなうと私は考えております。
もう1つ、メリット制から外すことにより災害防止努力に影響があるという点に関しまして、近年、精神障害についての判断は、民事訴訟と極めて近接してきております。事業主が、たとえメリット制の対象から精神障害が外れたからと言って、この民事訴訟への影響というものを考えたときに、急に長時間労働を解禁するなど、そのような過重労働を避けるための行動をとりやめるということは、現実的には考えにくいのではないかと考えております。
また、既に申し上げましたとおり、業務起因性判断が極めて微妙であるという点ですが、実際、行政訴訟においても民事訴訟においても多くの争いが発生しているところであります。労働者に対して保険給付が行われた結果、保険料率が上昇した事業主が、保険料認定処分の段階で労災支給決定が妥当ではないとして争うケースの増加、これを想定しますと、紛争防止の観点からも算定対象外とすることを考えてもよいのではないかと思います。
後段部分ですけれども、これも、おおむねほかの先生方と重なる部分がありますが、いわゆる雇い控えの問題については、私自身は、労災保険が対象とするところではなく雇用政策の問題であって、雇用保険あるいは労災の中で扱うのであれば、せめて社会復帰促進等事業などの活用によるべきと考えます。そのほうが雇用情勢などに対応した柔軟な対応も可能かと思いますので、私はそちらに重点を置くべきだと考えております。以上です。
○小畑座長 ありがとうございました。ほかはいかがでしょうか。御意見はございませんか。酒井委員、お願いします。
○酒井委員 この論点②に直接関係ないかもしれませんけれども、次の論点がメリット制の適用の話ではなくなってしまうので、ここで述べさせてください。先ほどから、今回のメリット制に関して、ある局面では労災抑止に効果があるかもしれないけれども、そもそも、労災には、努力して抑止ができるものと、そうでないものがあるのではないかという指摘が繰り返し出てきているかと思います。それは、全く私もそのとおりだと考えております。ただ、抑止しやすい労災がある、あるいは、そうでない労災があるというのは、事業所が直面している労災リスクという観点からは、業種ごとによって多分に異なるのではないかと思います。その観点からは、やはり労災保険料率が業種ごとに適切に定められているということが前提になるという気がします。
ですので、ちょっと大きな議論で恐縮なのですけれども、今回、メリット制に絞って議論していますけれども、そのメリット制の在り方を議論するには、そもそも業種ごとの保険料率が適切か、どうあるべきかということと併せて考えるべきという観点もあるかと思いました。以上です。
○小畑座長 ありがとうございます。ほかはいかがですか。大丈夫でしょうか。
こちらの論点に関しましては、まず、先ほどの論点に関して多くの留保を付けつつ、メリット制が効果があるというような出発点、また、それを評価するのは大変難しいという出発点、どちらに立つのか。そして、その留保の内容も様々でありましたが、その留保の内容との関連でどう考えるのかということとの関係でも、多くの違ったお立場というものが表明された状況です。このように非常に複雑な状況になっておりますので、またそれを事務局で整理していただく。その中で、災害防止努力、そして公平性、この2つのキーワードというものをメリット制について前提としつつも、いわゆる雇用促進の問題、疾病の特徴の問題、紛争の防止の問題、業種ごとの労災保険料率の問題など、そういった観点を加味しつつ議論を整理していただくということでお願いしたいと思います。
ほかに、何かこれについて更にという御意見はございますか。大丈夫でしょうか。ありがとうございます。
それでは、その次の論点につきまして事務局から御説明を頂きたいと思います。資料3「労災保険給付が及ぼす徴収手続の課題について」の御説明をお願いいたします。
○労災管理課長補佐(企画担当) 御説明します。論点案を御覧ください。論点①は、メリット制の適用を受ける事業主に対して、労災保険率の算定の基礎となった労災保険給付に関する情報を提供すべきか、情報を提供する場合、労働者の個人情報保護の観点等にも配慮いたしまして、どこまでの情報について提供すべきかを御議論いただきたいと考えております。論点②は、メリット制の適用、非適用にかかわらず、労災保険給付の支給決定あるいは不支給決定の事実を事業主に通知をすることについて、どのように考えるのかということです。
論点①、3ページを御覧ください。メリット制の適用の流れを御説明します。労災保険給付の支給決定がありますと、その翌々年度以降の労災保険率が、当該事業場における給付総額に応じ、増減されることになります。事業主が通知された率と異なる率によって申告・納付を行った場合、都道府県労働局がメリット適用保険率による保険料額を職権で決定いたします認定決定を行います。左下にありますとおり、メリット制適用の基礎となった労災保険給付の支給決定については、事業主には通知がされていない状況です。事業主は、青枠内の労災保険率決定通知書において、メリット制が適用された労災保険率を認識することになっています。
4ページの右枠のとおり、労災保険率決定通知書の記載事項には、メリット料率の算定基礎となった労災保険給付情報は含まれていません。5ページの右下にありますが、認定決定の通知書における記載事項にも、メリット料率の算定基礎となった労災保険給付情報は含まれていません。
資料の6ページです。メリット制適用事業主に対する労災保険給付情報の提供案として考えられるものを、一例として掲載しております。
資料7ページは御参考です。昨年7月にありました、あんしん財団事件の最高裁判決について、そのポイントを記載しております。
8ページも御参考です。労働保険徴収法における事業主がメリット制の適用について審査請求等を行う場合の流れについて表したものです。
10ページは、支給決定や不支給決定の事実に関する事業主への通知です。下の枠内ですが、実際に労働災害が発生した、負傷・疾病の発生といったことで、被災労働者などから労災保険給付請求が行われますと、黒い吹き出しにございますが、請求書の中に事業主の証明に関する欄といったものがあります。ですので、事業主としては、この機会に被災労働者が保険給付請求を行っていることが認識できるというものです。また、その隣ですが、監督署による災害発生状況等の調査の過程で、実際に事業主に対して労基署が接触をするといった過程でも、請求がなされていることが認識できるというものです。その上で、給付に関する支給・不支給決定といったものがなされますが、これは請求人に対して通知がなされるというもので、赤い枠内にありますが、事業主に対しては、支給・不支給に関する結果といったものは通知がされず、メリットが適用されている事業主であれば、仮に支給決定がなされている場合、2年遅れで、そういった保険料率から請求が容認されたことがうかがえるというものです。
本来、労災保険法の中で見ていきますと、被災労働者に対して保険給付を行うと同時に、事業主が再発防止策を講じていくことが必要になってまいります。こうした支給決定がなされたことが認識されないという状況において、そういった再発防止策を促すことができないのではないかという問題意識の下で、この論点を設定させていただいています。説明は以上です。
○小畑座長 ありがとうございました。それでは、資料3の1ページ目の論点に沿いましてお伺いしたいと思います。事務局からは論点①と②が示されておりますが、①、②をまとめて議論したいと思います。御意見のある方からお願いいたします。いかがでしょうか。水島委員、お願いいたします。
○水島委員 労災保険は、政府が所管し事業主が保険料を納めるという形になっていますが、素朴な感想として、これは政府の説明不足ではないかと思いました。これは、論点①にも②にも共通するものです。
論点①に関しては、事業主の中には、これを不意打ち的に感じる者もいると思います。事業主が納得できないとしても、せめて理解できるような説明が、申告・納付をした後ではなく、もっと早い段階で必要と考えます。事業主が情報を得ることによる御懸念の声があることは認識していますが、私は、保険料を負担する事業主に対しては情報を提供するのが原則であると考えますし、弊害が生じるのであれば、原則を踏まえた上で弊害が生じない方法を考えるべきであると思います。
私はこのような考えですので、論点②についても、保険の仕組みからして当然、保険料を負担している事業主に対して、こうした事実を伝えるべきと考えます。御説明にありましたように、早期に労災事故防止に取り組むという重要な観点もありますので、私は、この支給決定・不支給決定の事実は、できるだけ早い段階で事業主に伝えるべきであると考えます。
○小畑座長 ありがとうございます。次にどなたかおられますか。御意見はございますか。坂井委員、お願いいたします。
○坂井委員 では、発言させてもらいます。まず、論点①についてですが、労災保険における使用者の保険料負担というのは、これまでもしばしば言及されておりますとおり、労基法における個別使用者の災害補償に関する責任を基礎としているわけです。この労基法上の災害補償責任については、少なくとも使用者が補償の対象となる損害について個別具体的に、すなわち、どの労働者について、どのような災害により、どのような損害が発生したかといった事実を把握することが前提となっているのだろうと思います。そうすると、この責任の確実な履行を担保する労災保険において、特に上記の補償責任を基礎とする使用者の保険料負担の部分に関しては、使用者は、自身の保険料負担の前提となる労災補償に関する事実について、重要な利害を持っていると言えるのではないかと思います。
確かに現在の労働者の意識からしますと、例えば自身の健康状態や診療内容を使用者に知られたくない、したがって、これに関連する例えば療養補償給付の支給決定や給付額といったものを使用者に通知をしてほしくないという気持ちは、もちろん分かるのですが、少なくとも使用者の保険料負担の基礎となる基本的な情報、すなわち、労働者、災害、傷病、給付額といったものを特定し得る情報というのは、使用者への提供が正当化されるのではないかと考えております。
このような考え方を前提に、論点②番に関してですが、個々の労働災害に関する使用者の災害補償責任を基礎として、労災保険における使用者の保険料負担が基礎付けられているということを考慮すると、やはり支給決定・不支給決定の事実についても、これを使用者に通知することに合理性が認められると考えております。特に支給決定・不支給決定とメリット制を適用した保険料額の決定との間に、先ほども御説明があったとおり、時間的な隔たりがあるということを考慮すると、支給決定(不支給決定)の時点で、その事実を事業主に通知する意味は小さくないと考えております。私からは以上です。
○小畑座長 ありがとうございました。笠木委員、お願いいたします。
○笠木委員 ①については、まず資料にも挙げていただきましたとおり、令和6年の最高裁判決は、労災保険給付支給決定についての使用者の原告適格を否定するに当たって、当該事案では直接に問題となっていない保険料認定処分をめぐる使用者の手続保障が別の形で図られるということに、明示的に言及していまして、このことには重要な意味があると考えます。ですので、メリット制の適用を受ける事業主への保険料認定処分をめぐって、十分な手続保障が担保されるということは非常に重要なことで、労働者の個人情報保護への配慮というものもあるかとは思いますが、できる限り多くの情報を提供することが求められると考えております。
これと似たような観点になりますが、②についても、まずは労災予防という本日御説明いただいた観点から、確かに支給決定の事実が事業主に情報提供されるということは、基本的に望ましいことと考えております。また、メリット制の適用を争う時点では、労災保険支給決定から翌々年度となっており、労災に当たる事故や疾病の発生からは更に時間がたってしまいますので、支給決定の時点で使用者に情報提供がされるということは、手続保障の観点からしても適切ではないかと考えております。
他方で、以下、実務の流れを十分に理解しておりませんので、若干、推測のようなことになってしまいますが、支給決定について使用者への情報提供が行われ、数年後にメリット制が適用されれば、その時点で不服申立てができるということになりますと、そのこと自体は適切であると考えられる一方で、結果として、将来のメリット制の適用を予想して、使用者が被災労働者や遺族にコンタクトを取ったり、被災労働者に協力する資料提供者や証言者などに接触を試みるというような形で、関係者にとって事実上の追加的な負担が生じる可能性があるかと思います。この点は、水島委員が御懸念とおっしゃられたことに当たるかもしれません。また、今回の論点の範囲を超えて、少し一般的な議論になってしまいますが、使用者への手続保障の充実ということは最高裁も求めている重要な要請であると考えられる一方で、それによって、今後、増加していく可能性のある不服申立てや、それに向けて使用者が様々なアクションを起こすことで、被災労働者や関係者に事実上生じ得る直接・間接の負担について、どのように考えるかということは、別の重要な問題として検討や考慮が必要であるようにも思われます。
この点については、私自身は労災認定の実務等に関与しておりませんので、正確な知見を持ちませんが、その内容としてどういった事実上の負担があり得るのかというところについて、もう少し詳しく、場合によってはヒアリングなどを行って理解をした上で議論するといったことも、検討に値するのではないかと考えております。以上です。
○小畑座長 ありがとうございました。それでは、中野委員、お願いいたします。
○中野委員 大分、皆さんの御発言とかぶるところもあるのですが、論点①に関しましては、あんしん財団事件の最高裁判決は、メリット制の適用を受ける事業主が、保険料認定処分の不服申立て又はその取消訴訟において、メリット収支率の算定の基礎となった保険給付支給決定処分の支給要件非該当性を主張できるとしておりますが、そのための前提としては、事業主が算定の根拠となった保険給付支給決定を特定できることが必要となります。そうすると、3ページの適用の流れの図で言えば、遅くとも労災保険率決定通知書の送付の時点で、事業主に対して、不服申立てをするために必要十分な、なぜ保険料率が増減したのかが分かるだけの情報が提供されなければならないと思われます。
どこまでの情報を提供すべきかについては、確かに企業の規模や災害発生状況によっては、保険給付を受領している労働者個人を簡単に特定できてしまうという問題も生じ得ますが、論点②でも出てきますように、もともと事業主は保険給付の申請時に請求書の作成や監督署による調査に協力をしており、労働者が申請をした事実自体は把握をしています。保険給付の額についても、事業主が労働者に支払う賃金を基に基本的には算定されておりますので、労働者の心理的なハードルという事実上の問題はあるかもしれませんが、資料6ページに提案されているような情報を事業主に知らせることに問題はないのではないかと考えますし、必要な情報であろうと考えます。
論点②に関しましては、支給決定がメリット保険料率へ反映されるのは2年後、翌々年度であり、支給・不支給決定の時点で事業主に対して通知がなされても、その後、実際に不服申立てをするまでに、大分タイムラグがあるわけですが、事業主にとっては、その先に起こり得る問題について覚悟ができ、資料の保存などの準備をすることもできるという点で意味があると思います。ただ、個別の請求と直接に結びつく形で事業主が結果を知ることに伴って、笠木委員が御指摘されたような事実上の問題、労働者や遺族に対してプレッシャーが掛かるといった問題が起こり得るという点には配慮が必要かと思います。それでもなお、本日資料でお示ししていただいている、労働災害の再発の防止に取り組むインセンティブを与えるという観点からも、支給・不支給の決定の結果が事業主に早い段階で知らされるということには意味があるのではないかと思います。以上です。
○小畑座長 ありがとうございました。中益委員、お願いいたします。
○中益委員 中益でございます。論点①ですが、事業主にとっての手続保障という観点から、一定の情報を開示すべきとは思いますが、業務災害の情報は、病歴、障害、犯罪の被害を受けた事実など、要配慮情報を含む可能性がありますので、慎重に扱うべきと思います。労働者にとっては、これらの情報を意図的に使用者に隠している場合が考えられ、そのような場合には、これらの情報が自動的に使用者につまびらかになる仕組みを労災保険において採りますと、労働者の労災申請に忌避行動が出かねないように思います。例えば、資料の10ページ、手続の段階で事業主に知られるようなタイミングがあるわけですが、事業主の証明欄は相当に簡便なものであるはずですし、その次の事業場の訪問や事業主への聴取等も必ずなされるわけではないと思います。たとえば、実務がどうなっているか承知しておりませんが、恐らく被災労働者が嫌がって、使用者に知られるならば請求を取り下げるといったような事情があれば、聴取等もなされないのではのではと想像しますので、そのような知られたくない災害が水面下に潜り込みかねないような手続は、やはり慎重に扱うべきかと考えております。
他方で、論点②ですが、メリット制が適用される事業であるか否かにかかわらず、やはり事業主全体に支給決定があったかどうかくらいの事実は伝えるべきかと考えております。メリット制の適用を受けない事業にも、事業の種類別に異なる保険料率の適用がありますが、この仕組みは業種別メリット制と呼ぶこともあったものです。つまり、その狙いは、個別事業のメリット制と同様に、公平と予防の観点から導入されたものです。したがって、個別事業のメリット制が適用されるか否かにかかわらず、同種事業の業務災害を抑制すべく、各事業は災害防止の努力を求められていると考えられるところです。そして、具体的にどのような予防行動を取るかについては、業務災害についての情報を知ることが、やはり出発点となると思われますので、先ほど申しましたような労働者の個人情報保護の観点からの限界はあるにせよ、災害発生の有無程度は事業主に承知していただくのがよいと考えます。以上です。
○小畑座長 ありがとうございます。ほかはいかがでしょうか。よろしいでしょうか。今のところ、①と②について、使用者にとっての手続保障の重要性というのが強調されますと、①についても情報を提供すべきというお立場が強いかと思いますが、今、中益先生から出ましたように、非常に微妙な病歴であるとか障害といった情報を労働者が隠しているかもしれないと、そういった点に配慮すべきではないのかという御指摘もあったところです。②に関しては、災害防止努力というのを、いち早く始めるためにも、支給決定若しくは不支給決定というものを事業主に伝えるのが早いということは、とてもいいことであると。他方、笠木先生や中野先生の御指摘がありましたが、そういうことが、不服申立てという事業主のアクションとの関係で、被災労働者や御遺族、関係者の負担というような問題を生じかねないのではないかという点について、考えていく必要があるのではないかと。そういったことかと思います。
この観点について、何かほかに重ねての御意見はありますか。よろしいでしょうか。では、事務局でまた整理をしていただいて、これについて、まとめをお願いしたいと思います。
それでは、次回の日程等について、事務局から御説明をお願いいたします。
○労災管理課長補佐(企画担当) 次回の日程ですが、調整の上、追ってお知らせいたします。
○小畑座長 ありがとうございました。これにて、第5回労災保険制度の在り方に関する研究会を終了いたします。本日はお忙しい中、お集まりいただきまして、誠にありがとうございました。終了いたします。
5.議事
- 発言内容
- ○小畑座長 定刻になりましたので、ただいまから「第4回労災保険制度の在り方に関する研究会」を開催いたします。委員の皆様におかれましては、御多忙のところお集まりいただきまして誠にありがとうございます。本日の研究会につきましては、笠木委員、小西委員、中野委員、中益委員がオンラインで御参加ですので、会場参加とオンライン参加の双方による開催方式とさせていただきます。なお、中野委員は17時30分頃に退室の御予定です。また、水島委員は欠席と伺っております。カメラ撮りにつきましては、ここまでとさせていただきます。
それでは、本日の議事に入りたいと思います。本日の議題は「労災保険制度の在り方について(適用関係等)」となっております。この議題を扱うに当たりまして、まずは労災保険法等の適用範囲について御議論いただきたいと思っております。それでは、事務局から資料の御説明をお願いいたします。
○労災管理課長補佐(企画担当) 企画班長の狩集でございます。御説明します。
まず、資料1です。昨年12月に開催されました第1回研究会で、委員の皆様にフリーディスカッションいただいたところですが、この中でも今回議論の対象となります適用関係に関して事務局のほうでとりまとめたものです。ここで頂いた御指摘も踏まえて、それぞれの議題、論点を設定しているものです。
資料2です。労災保険法の適用範囲についての総論としております。論点ですけれども、労災保険法の適用対象(強制適用)の範囲をどう考えるかとしております。労災保険法は、基本的に労働基準法が適用される労働者の方が強制適用の対象になっておりますけれども、それ以外の就業者で強制適用とすべきというような方がいらっしゃるのか。あるいは、その場合、保険料負担の主体は誰になるのかについて設定しております。
2ページ、強制適用と特別加入について、それぞれのすみわけについて整理したものです。御案内のとおり、労災保険法については、労基法の適用対象である労働者を保護の対象としており、その当該労働者を使用する事業について適用事業としているところです。この強制適用の対象となる事業に従事されない方については、労災保険法の一義的な対象ではありませんが、特別加入制度によって適用対象となるというものです。
真ん中の表は、強制適用と特別加入のすみわけについて表にしたものです。強制加入ですけれども、労基法が適用される労働者を使用する事業が原則として適用対象となっております。また、保険料については、事業主が負担するとなっております。特別加入についてですが、特別加入、大別して3種類あります。ここでは、特に頭数が多いということで、第1種、第2種を主なものとして記載しております。第1種については、中小事業主等です。こちらについては、労働保険事務組合を通じて、中小事業主等の方が御自身で保険料を負担されて特別加入するという枠組みです。第2種です。こちらは、いわゆる一人親方やフリーランスの方たちが当てはまるものですが、こういった方たちについては、そういった職種の方たちによって構成される特別加入団体を通じて特別加入することになっています。保険料の負担ですけれども、負担者としては特別加入団体としております。
労災保険法の規定上は、第2種の方たちの保険料納付については、あくまでも特別加入団体が保険者である政府に対して納入することになっており、特別加入団体の中で個々の加入者からどういったお金の集め方をするかは、団体内の自治になっております。ですので、条文の規定に忠実に、負担者として「特別加入団体」と規定して書いておりますけれども、括弧の中に、実態として個々の加入者本人が負担することが一般的である旨を記載しております。
表の下の※書きですけれども、第3種特別加入というものがありまして、いわゆる海外派遣者です。労災保険法をはじめとした労働法規については、基本的に属地主義を採用しておりますけれども、この場合、海外出張にとどまらず、海外の国に出向等をされて、海外の事業に従事されている方は一義的には労災保険の対象にすることができませんので、そういった方たちのために労災保険の適用の道を開いているという制度です。下の表は、第2種特別加入の対象業務について一覧化したものです。後ほど特別加入に関する御説明の際に類似の表が出てきます。
適用総論に関してですが、本日御欠席の水島委員から御意見が届いておりますので、代読させていただきます。「大阪大学の水島です。本日は、所用のため欠席し申し訳ありません。資料を拝見し、論点について意見を述べさせていただきます。資料2、労災保険の適用対象(強制適用)の範囲について、後の論点に関わりますが、労働基準法が適用される労働者、あるいは適用されるべき労働者であっても労災保険が強制適用されない労働者が存在する現段階で、労働者以外の就業者を強制適用とする考えには反対です。労働者以外の就業者が、労災保険に特別加入できる機会は拡大しており、特別加入を通じた保護が可能です。
なお、第1回研究会で言及しましたが、労働者以外の就業者が特別加入することを前提に、特別加入に係る保険料相当額を、発注事業者が自主的に経費に上乗せすることは望ましいと考えます。事故型の業務災害、例えば町工場の経営者が、従業員とともに機械を動かして製品を作っているケースでは、経営者と従業員との間で、事故のリスクや保障のニーズは大きく異ならないと思います。特別加入制度は、このような趣旨と考えます。
しかし、疾病型の業務災害、特に長時間労働が原因となるような疾病について、経営者と従業員とでは、自ら長時間働くことを選択した経営者と、業務命令により長時間労働を余儀なくされる労働者とでは、状況が大きく異なると考えます。疾病型、特に脳・心臓疾患や精神疾患について、仕事や仕事の量を自ら選択し得る立場にあるものと、それを余儀なくされる立場にあり得る労働者を同様に扱うことに、私は大きな疑問を持っています」。代読は以上です。
○小畑座長 どうもありがとうございました。それでは、資料2の1ページ目の論点に沿って意見をお伺いしたいと思います。御発言の際は、会場の委員におかれましては挙手を、オンラインから御参加の委員におかれましては、チャットのメッセージから「発言希望」と入力いただくか「挙手ボタン」で御連絡いただけますようお願いいたします。御意見、いかがでしょうか。笠木委員、お願いいたします。
○笠木委員 適用対象者との関係で、労基法と労災保険法の関係を今後どのように考えていくべきかは極めて重要な論点であり、初回会合でも委員の間で意見が分かれていたところと記憶しております。この点について、私自身の初回のコメント等の繰り返しも少し含みますが、コメントさせていただきます。
まず、労基法と労災保険法を適用対象者の面で切り離し、労災保険を労基法上の労働者よりも広い範囲に強制適用していくことは、現行法の解釈として難しいことは当然であるものの、法改正によって一定の拡大を図り、労災保険制度の趣旨そのものに一定の修正を加えることは、理論的には排除されないと思われます。他方で、強制加入については拡大せず、労基法とのつながりを維持した上で、加入の必要性の高い者については、加入や保険料負担へのインセンティブを付す。あるいは、これと一部重なる面もありますが、注文者やプラットフォームなどに保険料負担を一定の範囲で求めていくようなスキームを考えるといった方向性もあり得ると考えます。
私個人としては、現段階で、少なくとも現在第2種の特別加入の対象となっている多様なフリーランスの就労者を全て労働者と並べて強制加入の対象とし、同じ保険の中に取り込んでいくことには抵抗を感じております。強制加入拡大という方向性を取るとしても、その方向性で対応できる就労者の範囲には、いずれにしても一定の限界があるように思われ、そのような、つまり強制加入の対象とすべき就労者は誰かという別の問題を論じざるを得ないのではないかと思います。この点、若干の問題の先送りという感じもいたしますが、この点についてはフリーランスに係る今後の社会的な動向、労基法上の労働者概念に関する現在行われている議論の動向、そして、労安衛法上の注文者の責任に係る議論の動向なども踏まえ、少し長期的な議論が必要であるように考えております。
そのため、現段階では現状の特別加入のように、労基法上の労働者についての労災保険とは別枠の制度を維持しつつも、加入に向けた一定のインセンティブや、注文者が保険料負担を行う義務のような保険料負担に係る特別なスキームを一定の条件の下で導入するという方向性がよいのではないかと考えます。ただ、こうしたスキームとして技術的にどのようなものが可能であり、どのような範囲で制度を考えていくかというところまでは、私自身も詰められておらず申し訳ございません。法令上、保険料の保険負担主体となっているのが、現行法上は特別加入団体ですので、特別加入団体による何らかのイニシアチブというものも想定し得るのかなと思っております。
少し長くなりますが、もう一点だけ、適用との関係で、次の特別加入に係る所とも若干、関係するのですが、補足的に指摘させていただきたい論点があります。労災保険においては、適用事業所と労働者の賃金総額のみが特定されており、給付の対象となり得る労働者が特定されないという適用の構造に関する問題です。リスクが現実化した時に受給権を有する者が誰か、ということが加入時に特定される他の社会保険とは異なる、こうした特殊な構造ゆえに、労災保険においては、契約当事者双方が労災の強制加入の対象であると認識していても、事後的に対象ではないことが判明することもあり得るという問題があるかと思います。
本日は問題となっていないのですが、3号の海外派遣について、この問題が顕在化した幾つかの裁判例がありますが、こうしたケース、つまり別途、特別加入の道が開かれているというケースでは、災害が起きてから、本来、特別加入をしておくべきであったということを当事者が認識することになります。フリーランスについて広く特別加入が認められるようになった今日において、特別加入している人の中に強制加入すべき労働者がいるのではないか、という問題の指摘もありますけれども、それとは別に、本来、特別加入をしておくべき人がそれを認識していないという可能性も、労災保険の適用の構造に由来して存在しているという点も、この適用関係の問題、そして、特別加入について考える際に、補足的に考慮しておく必要があるように思われます。長くなりまして、すみません。私からは以上です。
○小畑座長 どうもありがとうございました。続いて、中野委員、お願いいたします。
○中野委員 名古屋大学の中野です。労災保険法の適用範囲については第1回の研究会でも申し上げましたが、私は労災保険の社会保障的性格を強調するのであれば、労働基準法上の労働者に限らず、報酬を得て働く人は全て労災保険に強制加入する制度へと見直していくこともあり得ると考えています。本日、水島先生から明確に反対という御意見を改めて示されてしまいましたけれども、もちろん、これは法制度を根幹から見直すことになりますので、短期的にできることではないことは私も承知しておりまして、長期的な検討課題として申し上げています。短期的には、引き続き、社会のニーズに応じて特別加入制度を柔軟、かつ迅速に拡大していく形で対応していくことが現実的な対応になるだろうと思います。
本日の論点として、労働者以外の就業者に強制適用を拡大する場合、保険料の負担は誰が負うべきかということを挙げていただいておりますので、若干、付言いたします。全ての就労者を労災保険に強制加入させるといった場合、労働者以外の者について保険料を誰が負担するのかは、当然、論点の1つとなるわけですが、使用者に当たる存在がない以上は本人が負担することになるだろうと考えています。すなわち、労働者と労働者以外の就労者を1つの制度に包括するとしても、保険料負担の点において労働者とそれ以外の者の区別は残らざるを得ないと考えています。
確かに、労災保険部会で特別加入の拡大の議論に際して、当事者団体などのヒアリングを拝聴しておりますと、保険料負担が1つのネックになっていることがうかがわれますが、プラットフォームなどの注文主に、制度として保険料負担を課すことは難しいのではないかと思います。もちろん、将来的に労働法における議論が発展して、プラットフォームとプラットフォームワーカーの間にも労働法が適用される、あるいは特別な責任、使用者に類似した責任を負わせることが可能であるといった議論が発達すれば違う考え方ができるかもしれませんが、少なくとも、現在のところは難しいのではないかと思います。
また、フリーランスの方たちは必ずしも企業を相手に仕事をしているわけではなく、企業ではなくて、個人の消費者を相手にビジネスを行うフリーランスのように、使用者としての責任を負わせられるような主体がそもそも存在しないという場合もあり得ます。結局のところ、本人と注文主との間の契約において、保険料負担を含めた費用を相手方に支払うように求めていくといった、当事者間の契約の問題に還元されるように思われます。
例えば、フリーランス法のように、この点を含めて適正な契約が締結されるように法的な手当をしていくことは考え得るけれども、それは労災保険制度として対応する問題ではないのではないかというのが私の考えになります。以上です。
○小畑座長 どうもありがとうございました。ほかは、いかがでしょうか。中益先生、お願いいたします。
○中益委員 中益です。私は、この論点について個人的には否定的に考えております。4点、理由を述べさせていただきます。
第1に、労働基準法は危険責任の原理に基づいているといわれますが、危険という意味では、労務提供において、就労者自身の自由が制約されている労働基準法上の労働者と、そうではない就労者では、やはり危険の内実とその責任の質が異なるように思います。つまり、自らの意思で就労できていたならば避けられたかもしれない災害は、使用者の指揮命令に従い、自由を制約されながら業務に従事する中で発生したというところに、ほかの就労者とは異なる契約に内在する危険と、その金銭的補償を使用者に行わせる根拠があるように思います。
第2に、労災保険法が強制適用される労働者と、労働者ではない者の強制適用となる就労者が認められているような国はありますが、その労働者概念が日本の労働基準法上の労働者と本当に同じなのか、また、強制適用を拡大する根拠について、各国で共通理解があるのかなどの点で不明瞭な点が多いように思いますので、そういった検証のほうが先に必要と思っています。
例えば、今回の資料3ページの海外の例でも、ドイツなどは、基本的に無償労働に関する適用拡大だと思いますし、また、フランスの例も、労働基準法上の労働者に当たりそうな主体が挙げられており、労働者なり被保険者なりに対する認識が、日本とは異なっていることがうかがわれます。
第3に、労働基準法の労働者よりも強制適用を拡大するとして、その基準の設定に難しさがあるように思います。つまり、一方で、ある明確な基準を設ければ、交渉力の弱い就労者の契約相手方にとっては、それが保険料負担を避けるための指標として機能してしまい、基準の更に外側に、こうした契約交渉力の弱い就労者が新たに追いやられるといったことも考えられるところです。
他方で、明確な基準を設けずに総合考慮とすれば、労働基準法の労働者性も総合考慮ですから、その線引きが不明瞭になるおそれがあると思います。つまり、適用を拡大する場合、何らかの意味で、労働者に類似のものを念頭におくことになる可能性が高いと思いますが、両者が類似している上に、労働基準法上の労働者も総合考慮で、類似の者も総合考慮となると、両者の線引きが曖昧になるだろうと想像されます。
最後に第4に、何人かの委員から御指摘がありました保険料負担の点ですが、この保険料負担と報酬の最低保障とが密接に関連しているのではないかと考えております。すなわち、労働基準法の労働者以外の就労者に適用を拡大する意義の1つは、こうした就労者について、使用者に相当する主体に保険料負担を負わせるところにあるかと思いますが、仮に、こうした就労者が契約交渉力の弱い主体であるならば、使用者に相当する主体が行った保険料負担は報酬に転嫁されるおそれがあります。それを防ぐには、最低賃金法のように報酬に関する最低保障の仕組みを整理することが必要です。労災保険法の労働者が最低賃金法の労働者と連動していることの意義は、部分的にはこの点にありそうに思っております。なお、ドイツのように無償労働に拡大することは、この保険料負担の報酬への転嫁が起こり得ませんので、こういった観点からは参考になると思っております。他方で、仮に適用拡大の対象となる就労者の契約交渉力が弱くないのであれば、あえて他方契約当事者に保険料を負担させずとも、報酬の中に災害発生時の金銭補償分なり、あるいは民間保険を利用する保険料分なりを、就労者自身で含めて契約交渉することが一応できるはずですので、こうした就労者に適用拡大の必要性は特にないのではないかと考えております。以上です。
○小畑座長 ありがとうございました。ほかは、御意見いかがでしょうか。一応、労災保険法等の適用範囲についての議論は出そろったということでよろしいでしょうか。地神委員、お願いいたします。
○地神委員 地神です。重なる部分も多いかとは思うのですが、少しだけ発言させていただきます。
この適用に関しては、保険料負担をすべき主体というもの、そして技術的にできる主体というものから考えていくのも1つの見方ではないかと考えられます。これまでも、各委員からいろいろ御指摘はありましたが、現在の労働者というものは、文字どおり、具体的指揮命令を受け、時間的、場所的拘束があり、それがゆえに事業主は補償責任を負い、また、保険料の支払の責任を負うという形になっており、私も、この労災保険の中核自体はそこにあると思っております。他方で、労災保険法が労働基準法とは別の制度である以上、現在の特別加入のように、事業主負担を原則とし、充実した給付を行うという労災保険の本質を崩さない限り、ある程度の拡張は認められるという前提に立った上で、特に第2種、ここが中心的に論じられているかと思いますが、これを労働者として扱わない前提で、では、どこに線引きするんだというようなことが、やはり問題になると考えます。1つの考え方としては、事業主に類似する者が、保険料を負担すべきであるという一定の根拠があり、また、その徴収が技術的に可能かどうか、この点を議論した上で、労働者としては扱わないけれども、また別の制度、それが労災保険制度の中なのか、あるいは別立ての制度を立てるのかということは、また別途問題になりますが、一定の保険料を負担してもらうことを検討してもいいのではないかと考えております。
具体的には、就労者が仕事の発注者に対し、一定期間あるいは一定量以上のサービスを継続的に提供する、かつ災害発生のリスクがある程度高いといった場合には、事業主に類する者についても保険料を負担してもらうという根拠があるのではないかと考えます。
このような場合、発注者は具体的な指揮命令、時間的、場所的な拘束などを行っていませんが、災害発生のリスクがかなり高く内包されているにもかかわらず、自らリスクを負うことなく、ビジネスを遂行することができるという利益を有するものです。それが、事業主に類する者が保険料を負担する根拠になるのではないかと考えております。
もっとも、これまでもほかの委員から御指摘のとおり、労働者と違い、働き方の自由度が高いことや、自ら災害を避けることができるという点を考えると、費用を全額負担というところに拘泥するのではなく、例えば、保険料を折半するなどの方法も考えられるかと思います。そして、適用という側面からすると、先ほど来、私が申し上げているような方向でいくと、特別加入と同様、任意加入を原則とする、けれども、これに対して事業主が保険料を支払うという必要が発生してくるという点で、事業主については、言わば就労者が望めば強制されるという形の強制適用になるかと思います。これも中長期的な発想ではありますので、今すぐにということではないかと思いますが、今後、その具体的内容などについて議論していければよいなと考えております。以上です。
○小畑座長 ありがとうございました。ほかは、いかがでしょうか。一旦、御意見が出そろったということでよろしいでしょうか。今、委員の皆様のお話をまとめますと、中長期的な話、つまり長いスパンでの話であると、労災保険制度そのものを変更する、大きく変えるということも可能かと思いますが、短期的には難しいという前提に立ちますと、皆様、おおむね現在の状況、現在の適用範囲に関する議論を大きく今すぐ変えるということではないといった見地に立っておられると言えるかと思います。また、その過程で、笠木先生から御指摘がありましたが、海外派遣の特別加入の話に関して、出てきた適用事業所や賃金総額相当額というのが特定されていても労働者が特定されていないということをどう考えるのかという点について重要な御指摘があったかと思います。今の時点で、更に何か御意見などはありますか、よろしいでしょうか。では、こちらについて、事務局のほうでも御意見の整理をしていただけたらと思います。ほかに、補足の御意見がないようでしたら、続いて、特別加入について議論をしてまいりたいと思います。事務局から資料の御説明をお願いいたします。
○労災管理課長補佐(企画担当) 資料3を御覧ください。特別加入についてです。論点としては、一人親方等の労災補償を適切に運用していくため、特別加入団体にどのような役割を担わせるべきかと、設定しております。
2ページ、特別加入制度について趣旨と概要についてです。まず、趣旨について、特別加入制度は昭和40年の改正法で創設されたものです。先ほど総論の所で申し上げましたように、大別して3種類あり、発足当初は第1種、第2種の2種類でした。下の枠内の「参考」の部分にありますが、発足当時の業種は、数としては極めて限られていたことがお分かりいただけるかと思います。趣旨の部分の真ん中の枠囲いですが、基本的に労基法の労働者を対象としております。業務の実態、災害状況等を見まして、また、業務上外の判定など保険関係の適切な処理が技術的に可能かといったことを踏まえて、労働者に準じて保護すべき者については特別加入の制度を設けているということです。
当時の整理としては、比較的抑制的な考え方が採用されていたと言えるかと思います。こうした考え方が変わったのは、つい最近です。2つ目の○の部分ですが、令和元年12月の労災保険部会で労働政策審議会での建議がなされており、ここでは、昭和40年当時に想定されていなかったような仕事、IT関係などが例示されていますが、こういった仕事が出てきたこと、社会経済情勢の変化を踏まえて、特別加入制度についても現代的にアップデートしていくことが提言されたことを受けて、特別加入制度についてはその対象を拡大してきたという経緯があります。
下の、近年の特別加入対象となった事業又は作業の左側の部分ですが、令和に入ってからの対象の拡大がお分かりいただけると思います。大きな所で申し上げますと、令和6年11月に施行されたフリーランス新法に伴って、特定フリーランス事業が対象となっているところです。これによってフリーランスについては、ほぼ広く対象となっていることが言えるかと考えております。
次のページ、特別加入制度について、対象者です。申し上げているとおり、特別加入の対象者は3種類ありますが、この中でも対象業種が非常に広く、分かれているのが第2種です。一人親方その他の自営業者と特定作業従事者とが、第2種となっております。この中の特定作業従事者の下から2つ目の所に、「介護関係業務に係る作業及び介護支援作業」がありますが、こちらは後ほど御説明する家事使用人の方たちが特別加入する際には、この業務として特別加入することになります。
一人親方等と特定作業従事者の区別、メルクマールについては、下の参考部分に逐条解説の記載を抜粋しております。簡単に申し上げますと、一人親方等については、比較的事業性が強い一方で、特定作業従事者に関しては、文字どおり、手を動かす作業の要素が強いということがあり得るところです。一方で、近年、特定作業従事者に、ITフリーランスなどの職種の方が追加されていますが、こういった方たちは事業性の強い側面もあるという御指摘のあるところです。
4ページ、5ページは参照条文です。労災保険法本体では、第33条以降に、特別加入について規定しております。対象業務等の詳細については施行規則に下りており、更に詳細の運用事項に関しては通知等で補っています。
6ページを御覧ください。論点としては冒頭に記載している論点です。現状ですが、第2種特別加入について、一人親方等の方々については事業主といったものがありませんので、こうした一人親方等の方たちによる団体を「事業主」とみなして労災保険を適用するということにしております。この特別加入団体については、労災保険法の中では事業主、「擬制事業主」とされ、一方で、この加入者については「労働者」とみなすということになっております。
しかしながら、こういった特別加入団体については、あくまで保険技術上の擬制事業主ですので、一般的な事業主が負っているような労働安全衛生法等に基づく業務災害防止に関する措置の義務といったものは基本的には課せられていません。この点は、通常の労働者の方との均衡等を考慮して、施行規則の中では、特別加入団体について、業務災害防止に関して講ずべき措置を定める等の義務が課せられております。条文本体に関して、下の部分(明朝体で記載)ですが、労災則第46条23の第2項です。ここでは「業務災害の防止に関し、当該団体が講ずべき措置及びこれらの者が守るべき事項を定めなければならない」としており、あくまでも講ずべき措置、それから加入者の方たちに遵守していただく事項を定めるところまでが義務となっております。
7ページです。こうした特別加入団体について成立要件としては5つの要件が課されております。上の薄水色のアからオまでの5つの要件ですが、アについては、ある特定の業種の一人親方等の相当数を構成員とする単一団体であることで、いわゆる連合団体でなく単一団体であることとされております。また、イからエまでについては、構成員の身分の得喪や、組織、運営に関しての要件があり、組織としても十分機能するということが担保されるかということです。さらに、オは、いわゆる地域要件であり、その団体の主たる事務所の所在地を中心としたエリアで活動することが求められております。
最近の見直し部分について、1つ目の○ですが、地域要件に関しては、近年の情報通信技術の発達等を見据えて見直しがなされております。特別加入団体が、災害防止等に関する研修会を実施する場合には、ブロックを超えた事務処理を認めるということになっております。また、2つ目の〇ですが、昨年11月に施行された特定フリーランス事業に係る特別加入団体については、こうした特定フリーランスの方が、非常に広範な業務の方が全国で活動しておられることも鑑みて、更に4つの要件を課しております。下の薄水色の①~④です。①フリーランス全般の支援のための活動実績を有していること。②全国を単位として特別加入業務を実施すること。その際には、都道府県ごとに訪問可能な事務所があること。③必要な各種支援を加入者に対して行っていくこと。④適切に災害防止のための教育を行った上で、その結果を厚生労働省に報告すること、我々に対してフィードバックしていただくということについても要件になっているものです。
8ページです。特別加入制度の状況についてです。対象業務ごとにどの程度の加入者の方がおられるか、あるいは団体があるかということを記載しております。やはり建設業や運輸といった創設当初からあった業種、危険度がある程度高い業種に加入者の方が多くおられることが分かるかと思います。特定作業従事者で言えば、農作業がボリュームゾーンです。特別加入者の合計は、右下部分ですが、190万人強となっております。労災保険法を国内で適用されている就労者が約6,100万人~6,200万人ですので、特別加入が大体3%程度を占めております。
9ページ、特別加入されている方の令和5年度の新規受給状況の実績値です。実際の給付項目については記載しておりませんが、やはり加入者の方が多数いらっしゃる業種について新規受給されている方たちが多いことが分かるかと思います。
また、下の枠内ですが、特別加入団体が実際に行っている災害防止措置の実例を我々で収集したものです。この主なもので見ますと、研修会や講習会の実施、あるいはテキストや動画、メールマガジンなどのコンテンツの提供、さらには加入者の方に遵守していただく事項についての呼び掛け、こういったことがよく見られるということです。
なお、資料3に関しては、水島委員から特段の御意見は頂いていません。以上です。
○小畑座長 ありがとうございました。資料3の1ページにある論点に沿いまして、意見をお伺いできればと思います。いかがですか。地神委員、お願いします。
○地神委員 2点ほど発言させていただきます。まず1つ目、特別加入制度の趣旨について資料の2ページにあります。少し総論的な部分で、議論しておくべきではないかと考えることですが、特別加入制度の趣旨として、ここに引用されている中で真ん中辺りに、「制度本来の建前を損なわない限度において可能である」と。この点をどこまで維持するべきかというところは、検討する意義があるのではないかと思っています。
まず、制度本来の建前ですが、これをどのように捉えるかというのは、かなり論者によって差があるような気がします。取り分け特別加入に関して見ますと、やはり事業への適用、事業主が保険料を負担すると。この制度が、制度本来の建前ではないかと思われます。
それが故に、現在、特別加入団体を、先ほど御説明いただいたように事業主として扱っているわけです。ただ、その建前がそもそも必ず必要なのかという点、現在のようにフリーランスへの拡大が行われている中において、果たしてこの建前を維持していくだけの理論的な根拠があるのか、あるいは実益があるのかという点は、今、私自身に何か具体的な案があるわけではないのですが、検討していく必要があるのではないか。ひいては、特別加入団体というものを必ず間に挟まなければこの制度自体は成り立たないのかという点は、今後議論してもよいのではないかと思っております。
また、「損なわない限度」という言葉も気になるところです。先ほど制度上の問題として、事業主を擬制しなければならないというのは建前からという点でありますが、この「損なわない」という点に、もし財政的に特別加入制度によって、いわば本体の給付が害されるなど、財政的な問題が発生するという場合には、本来の建て前を損なうことになるのかどうか、この点も少し気になるところです。
先ほど御説明いただいたように、約3%という数字がありますが、仮に今後、フリーランスの特別加入が増大して10%、20%と拡大していったときに、果たして制度本来の建て前を損なっているとは言えないのか。あるいは、損なっていてもいいのだという方向になるのか、この辺りは検討する余地があるのではないかと思っております。以上が、総論的な話です。
もう1つは、非常に具体的な内容です。正に整理していただいた論点である「特別加入団体はどのような役割を担わせるべきか」という点についてです。第2種に係る特別加入団体というのは、先ほど来、御説明いただいているように、事業主拠出という、いわば法の建前から法律上は保険料の納付義務者でもあり、拠出者でもあると言えるのではないかと思います。しかし、通常の事業主のように、保険料を納付する、拠出すること、それによって保険給付が行われることにより、労働基準法の災害補償責任を免れるとか、あるいは中小事業主のように、自らが保険給付を受けるという受益が存在しないものです。そのように、特に金銭的なものを中心として受益の少ない特別加入団体に、現状、ここでお示しいただいたような、以上の災害防止に係る義務や、設立の要件などを課すのは難しいように感じられます。むしろ、それによって、特別加入団体を運営するなどのハードルが上がるのであれば、特別加入制度への加入促進の面からも問題があるように思われます。どちらかと言えば、特別加入団体については義務や要件の設定というよりは、インセンティブの付与、例えば社会復帰促進等事業の安全衛生確保等事業の利用などを通じた災害防止措置を促進するというような形が適切ではないかと考えております。以上です。
○小畑座長 ありがとうございました。ほかにいかがですか。中野委員、お願いします。
○中野委員 特別加入制度の第2種において、初回の研究会の際に、一人親方等と特定作業従事者への振り分けがどのようにされているのかよく分からないと質問いたしまして、今回の資料3で御説明を頂いて一定の理解はできたところです。
ただ、やはり同じフリーランスでも、一人親方等に当たる場合と、特定作業従事者に当たる場合があるなど、特別加入制度の拡大に伴って業者を区別する基準が曖昧になってきているように思われます。区別が曖昧になってきている状況下で、一人親方等に当たる場合には事業の全体が労災保険の保護の対象になる、つまり、作業のみでなく作業の周辺の部分も保護の対象になるけれども、特定作業従事者の場合は作業に係る災害のみが保護の対象になるというように、補償の範囲に差があるということが適切なのかどうかということは検討の余地があるように思われます。
2点目として、特別加入団体の役割については、労災保険部会の議論でも、特別加入の範囲を新しく拡大するたびに、委員の方たちから特別加入団体が災害防止の措置をしっかり講じてほしいという要望が出されています。資料3の6ページにあるように、特別加入団体は「業務災害防止に関して講ずべき措置を定める等の義務」を負うにとどまっており、実際に当該措置をどのように講じているかのフォローアップが不十分なのだと思われます。
7ページの「最近の見直し」にあるように、特定フリーランス事業の特別加入団体については、災害防止のための教育の実施を厚生労働省に報告することが要件として課されておりますが、ほかの既存の特別加入団体についても同様の要件を拡大していくことが必要ではないかと考えます。
3点目として、これは資料4の先取りになってしまいますが、資料4で、家事使用人の方たちについてお示しいただいたデータを見ますと、労働保険に特別加入していない理由として、「制度を知らなかった」という理由が約20%を占めています。特別加入は任意加入ですので、制度があることを知った上で加入していただけないのは致し方ないのですが、制度が知られていないために活用されていないということは問題だと思われます。
その点で、資料3の8ページ、特別加入制度への加入の状況をお示ししていただいておりますが、これが対象となる方たちのうち、どの程度の人たちが加入しているのかということが問題だと思います。特別加入が新しく認められたときには、厚生労働省のホームページでお知らせが出ますが、関心を持って自ら厚生労働省のホームページにアクセスをしなければ情報を知りようがありませんし、その後の継続的な周知は特別加入団体など、それぞれの業界に任せてしまっているのが現状なのだと思われます。
私が言っているのは特別加入団体の役割というより、行政の役割のような気がしてきましたが、特別加入制度の実効性を担保する上で、この点についても行政側がフォローする必要があるのではないかと思います。先ほどの資料2の論点の所で述べたように、労災保険制度の適用範囲を直ちに労働者以外のものに拡大することは難しく、特別加入の拡大で対応していくことが現実的な対応であるならば、特別加入の制度が十分に周知され、保護を必要とする人に加入する機会がきちんと与えられているということが重要だと思われます。以上です。
○小畑座長 ありがとうございました。笠木委員、お願いします。
○笠木委員 ありがとうございます。2点ほど発言をさせていただきます。1点目は、特別加入団体に、法が使用者に準じた位置付けを与えているというところから、特別加入団体に予防の取組を求めるという考え方には魅力的な面もあり、こうした取組を行っていくこと、あるいはその対象を広げていくということについては異論はありません。
他方で、特別加入団体は加入者の仕事の内容等について具体的に周知しているわけでもなく、権限を持つわけでもありませんので、予防の取組といっても、かなり限定的なものにならざるを得ないと思います。
特別加入団体ということから少し離れますが、予防という観点からは、先ほど私が論点1との関係で申し上げた点と関連して、本来は安衛法における注文者の安全管理の責任なども注目されている傾向と整合的に、注文者にもう少し労災予防に係る何らかの責任を求めるようなことが、先ほど申し上げたような保険料などについての注文者の関与の在り方などと組み合わせて、全体として行われることが検討に値するのではないかと考えております。
2点目は、先ほどの地神委員の発言と重なる所がありますが、特別加入について、例えば、フランスで認められているような完全な個人の任意加入の仕組みとした上で、対象者を制限しないオープンな仕組みとしつつ、一部の業務委託者やプラットフォームなどとの関係で特別な制度を考える、というように、少し段階的、かつある意味ではシンプルな仕組みにすることが可能かどうかということについて、検討の余地があるのではないかと考えております。以上です。
○小畑座長 ありがとうございました。中益委員、お願いします。
○中益委員 中益です。この論点に関して1点発言させていただきます。
保険には、一般にモラルハザードが伴いますので、保険事故の発生について保険リスクにさらされる主体が注意を怠る可能性があるところ、特別加入の仕組みでは、労働者の場合と同じく、特別加入者の過失による災害もカバーされる仕組みとなっているかと思います。ただ、労働者と特別加入者では、労務提供に関する自由の制約が異なりますので、本来、そうした行動の自由がある働き手の不注意を問わないというのは、労働者の場合よりも更にモラルハザードを招きやすいと考えております。
立法論としては、予防に関する仕組みが労働者よりも厚い制度設計も考えられるのではないかと思います。この点は、先ほど笠木委員からも御指摘がありましたように、特別加入団体は、事業主のように働き手に対してあれこれコントロールできるわけではないため、予防と言っても限界がある印象です。したがって、特別加入団体以外の予防策を検討して然るべきかと思います。この点、例えば、フランスやイタリアでは、保険料に関するメリット制について、災害率だけではなく、一定の予防措置をとったかどうかによって保険料率を変動させる仕組みがあるように聞いていますので、とくに特別加入者については、こうした仕組みなども検討に値するのではないかと考えます。以上です。
○小畑座長 ありがとうございました。酒井委員、お願いします。
○酒井委員 皆さんの議論を伺っておりまして、私は法学者ではないので、少し議論についていけない部分もあり、今回の労災補償を適切に運用していくために、特別加入団体にどのような役割を担わせるべきかという論題とは直接的にはふさわしくないかもしれませんが、労災保険制度に課された役割として、もちろん補償を行うということが第一ですが、それと同時に労災保険に労災を抑止するというインセンティブが付されていると考えるならば、やはり、保険料をリスクに見合ったように適切に設定していくということが一般論としてあるかと思います。
今、中益委員から外国の例でメリット制を挙げられましたが、すぐにメリット制を特別加入にも適用できるかどうか私には分からないのですが、少なくとも、業種ごとの労災リスクに適切に応じた保険料の設定が必要になってくるかと思います。
特に、特別加入団体に業務災害防止に関して行政上の指導などを講ずることがなかなか難しいということであれば、保険料の面で対応していくということが一般論としてあるのかと考えております。具体的にどういうふうにやったらいいのかというのは、にわかには私には思い付きませんが、これは初回の研究会でも述べさせていただきましたが、少なくとも、現時点で業種ごとの保険料率が必ずしも適切ではない部分があるとすると、そういったものに対して、きめ細かに対応していく必要もあるのかと思います。
もう一点は、本当に素人質問で恐縮ですが、現状で特別加入団体が業務災害防止に関して行っている措置が具体的にはどういったものなのか知りたいと思っていますので、もし、よろしければ次回以降の研究会等で、例というか、エピソード的なものでも構わないのですが教えていただきたいと。そうすると、特別加入団体で業務災害防止の努力としてどういったことができるのかというイメージが沸くので、それを教えていただけたらと思いました。以上です。
○小畑座長 ありがとうございます。
○労災管理課長 今、酒井委員から御指摘の関係ですが、資料の9ページの「参考」の所に、特別加入団体が行う災害防止措置の実施事例ということで、全てではないのですが一部、県を跨いで取り組んでいる所についてはどういう災害防止教育をしていますかということを報告してもらっています。そういった所からピックアップしたものをここに御紹介させていただいております。また、次回以降で、もう少し詳しいものを何かお示しできるものがあれば用意したいと思います。ありがとうございます。
○酒井委員 ありがとうございます。
○小畑座長 例えば、一人きりで自営でされている方についてが、最新の労災予防のために重要な法規則の改正があったり、新しい危険を避けるための手段に関しての情報があるけれども、お一人お一人に1つずつ届けるというのはなかなか難しいところがあるので、特別加入団体を通じて、そこからアプローチするということも考えられるかと思います。ほかにいかがですか。坂井委員、お願いします。
○坂井委員 特別加入団体の役割に関しての問題意識ですが、問題意識自体は、先ほどの中野委員の御発言の最後の点と重なる部分があるのかと思います。特別加入の前提として、制度の周知が第一だというところを膨らませて考えられないかという話になってきます。
一人親方等の自営業者にとっては、特別加入というのは、民間保険などと並んで、職業上のリスクに対処する自助努力についての選択肢の1つになるのだろうと理解しております。もっともこの自助努力というのはなかなか難しいところがあって、業務災害のリスクを過小に見積ってしまったり、漠然とリスクを認識してはいるのですが、具体的な対処、保険加入などを後回しにしたりという形で、これを怠ってしまう自営業者も少なくないところかと思います。
特に特別加入の対象者には、業務災害に関して一定のリスクがあるということが想定されていると考えると、そういった自助努力が先送りにされるという問題は軽視できないところがあるのだと考えています。
そこで、特別加入団体の役割で何か考えられないかという問題意識を持っていたわけですが、特別加入団体というのは、もちろん個々の団体で多様だと思いますが、特定の業種や職域の自営業者の人たちと一定の接点を持っているということに着目して、まだ特別加入していない自営業者も含めて、職業上のリスクへの対処を促進する役割も期待できないかという問題意識を持っております。
こういった考え方を前提に、特別加入団体や、その母体となるような団体のほうが適切な場合もあるかと思いますが、そういった団体に特定の業種や職域の自営業者を対象にして、また、その団体が属する業種、職域の特性も踏まえつつ、まずは職業上のリスクへの理解を深めると。次に、リスクについて認識してもらったら、当該リスクへの備え、すなわち保険加入などの対処を促すと。さらに、その際の選択肢の1つとして特別加入があるのだという可能性を提示するという周知・広報への貢献を求めることはできないかと考えております。以上の内容というのは、労災保険の趣旨や、特別加入の意義から演繹的に出てくるという話、事柄ではないかとは思いますが、特別加入団体の付随的な役割、各種の自営業者に対して比較的接触しやすい立場にある特別加入団体の付随的な役割として検討できないかという問題意識を持っております。私からは以上です。
○小畑座長 ありがとうございました。ほかはいかがですか。皆様、御意見は出尽くしたとお考えでしょうか。大丈夫ですか。
特別加入につきまして、特別加入団体の役割を超えて、いろいろな御指摘がありました。特別加入団体につきましては、果たして本当に必要なのかというような御意見もあったわけですが、もし特別加入団体が効果的な役割をもっと果たすとしたら、どういうことがあり得るかということについての御意見もあったところです。
また、特別加入団体に特化せずに、一般的に特別加入に関する様々な論点が出てきました。いろいろな方向性、将来的な方向性としても大切な御指摘が相次いだところかと思います。こちらについては、また事務局のほうで御意見を整理して、まとめていただけたらと存じます。事務局のほうでは、今までのところで何かありませんか。大丈夫ですか。ありがとうございました。
続きまして、家事使用人に係る災害補償や労災保険適用について議論してまいりたいと思います。事務局から資料の御説明をお願いします。
○労災管理課長補佐(企画担当) 御説明します。資料4を御覧ください。家事使用人に係る災害補償・労災保険適用についてです。まず、家事使用人に係る災害補償・労災保険への適用に関する議論の前提として、本年1月に取りまとめられています労働基準関係法制研究会の報告書があります。この研究会の中では、労働基準法の中における労働者や事業などの考え方について現代的な見直しなどが議論されているところです。この報告書の中では、家事使用人についても、その取扱いについても記載がなされております。労災保険法の中での家事使用人の取扱いに関してもこの労基法における議論、検討を踏まえながら検討していくものと考えており、その上で論点設定をさせていただいております。
論点①は、労働基準法における災害補償責任を家庭が負うことをどう考えるか。また、労災保険法等を適用する場合、事業主として責任を負うのは誰になるのか。論点②は、仮に、労災保険法等を強制適用する場合、私家庭に強制適用するという場合ですけれども、どのようなことに留意して制度設計をすべきか。この2点について挙げております。
2ページ、家事使用人に係る労基法、労災保険法の中での取扱いについてです。「家事使用人」については労基法上で文言は出てきますが、明確な定義というものは置かれていないところです。しかしながら、この労働基準関係法制研究会の報告書の中にも触れられていますように、一般的には、個人宅に出向いて、私家庭において直接労働契約を結び、その指示のもと家事一般に携わっている方を指しています。その下に、労働基準法の条文を抜粋していますが、116条第2項において、家事使用人については、この法律は適用しないということで、明確に適用除外が謳われております。こうした適用除外がなされている考え方について、この下の薄水色の部分ですけれども、家事使用人の労働の態様は、各事業における労働とは相当異なったものであることがあります。これは当時、いわゆる住み込みの女中さんのような就業形態ですけれども、家庭の中で、家族に準じたような存在としてお仕事をされていると、そういうことを踏まえて、一般的な事業で使用されている労働者の方と同一の規制を施すことが適切ではないということで、こうした判断がなされてきたということです。
労災保険法については、労基法の適用対象である労働者を使用する事業を適用対象としているところですので、労基法の適用がない「家事使用人」については、一義的には労災保険法の適用対象ではなく、必要に応じて特別加入による補償が行われることになります。
3ページです。家事使用人、家政婦さんに関して、その雇用類型に着目して整理を行ったものです。一番上ですが、いわゆる家事代行サービスと言われる事業者に雇用されて、私家庭で仕事をされている方ですが、このような方たちは、このサービス会社で雇用されている労働者に当たりますので、労基法、労災保険法が直接に適用されることになっています。その上で、下の赤枠の部分は、事務局として議論の射程に入る類型の方たちと考えており、私家庭に雇用される方たちで、類型としては2つあると考えております。1つは、口コミ等で私家庭と直接に雇用契約を結んだ上で、その指揮命令の下で仕事をされる方です。もう1つは、家政婦紹介所等を通じて私家庭に赴いて仕事をされている方が想定されるかと思います。一番下に、個人請負といった形態についても挙げております。
右の薄水色の部分は、労働基準関係法制研究会の報告書の中での家事使用人に関する言及についてまとめたものです。先ほど申しましたように、住み込みの使用人という働き方について、昔は想定されていたところですけれども、このような家事使用人の方は減っており、通勤、いわゆる通いで私家庭に出向いて仕事をされているという点で、通常の労働者と変わらなくなってきています。そういう点で、家事使用人を特別視して労働基準法を適用除外する事情は乏しくなっていることが謳われています。
然は然りながら、このような方たちが仕事をされている場所というのは個人家庭ですので、やはり通常の会社、事業とは若干異なってきているところです。こういったところに公法的な規制をどう及ぼしていくのか、私人に対して使用者責任を負わせるとか、私家庭に対して監督・指導を及ぼすことは本当に適切なのか、あるいは、どのような履行確保が考えられるのかといった課題があり、慎重な検討が必要であるところであり、そうしたことも留意して制度設計に早期に取り組むべきというように報告書の中では提言されております。労災保険法についても、ここで挙げられていますような留意点や課題を踏まえて考えていくことが必要かと思っております。
4ページです。冒頭に挙げました論点ですけれども、実際に家事使用人に対して、災害補償責任や労災保険法の適用を及ぼしていく際に、一般的に前提として、事業主の方たちがどういった責任を負っているのかを挙げております。1.労働保険徴収法に規定する事業主の責任です。徴収法の中での事業主の方たちの一般的な責任、まずは保険関係が成立したことを届け出ていただく。それから、適切にその保険料について算定し、申告・納付をする、いわゆる「年度更新(年更)」という作業が発生してまいります。また、未納付が発生した場合には、追徴金を納めるということも発生してきます。
次に、その下の2.労災保険法に規定する事業主の責任です。事業主からの費用徴収を挙げております。適用される場面はさほど多くはないのですけれども、例えば、事業主の方が、故意又は重大な過失により、保険関係の成立を届け出ていない未加入の状態の中で事故が生じた場合、あるいは滞納している期間、督促がきても更に滞納しているような場面で事故が発生した場合、また、事業主が故意、重過失により業務災害を発生させたような場合。こうした場合については事業主から費用徴収をするということが想定されます。
また、その下の「その他の関連する義務」の部分ですが、これは規制的な法律でよく見られるものですが、使用者の報告・出頭、それから立入検査といった行政活動の対象となることが想定されます。また、これらの規定については、下の黒い太字の部分ですが、刑事罰による担保がなされているということです。家事使用人に対する労災保険法の適用を考えるに当たって、こうした事業主の方たちが一般に負ってる責任といったものとの対比をどう考えていくかということがあるかと思われます。
5ページです。こちらは「参考」として、労働保険事務組合に関する概要です。労働保険事務組合については、特別加入の第1種である中小事業主の方たちが特別加入する際に、事務負担の軽減のため、事業主の団体、商工会などが想定されますが、こうした団体が保険料の申告・納付や各種届出などの事務を委託されて、代わりに行うことができるというものです。実際に、私家庭が、仮に使用者として保険料の納付等の行為を行う場合、例えば、こうした何らかの機関が委託を受けてその事務を担っていくようなことも考えられるのではないかというものです。
6ページです。2023年にJILPTが実施しているアンケート調査からの抜粋です。こちらのアンケートでは、2,000人弱の家事使用人やその経験者の方にアンケートを行っております。左上の水色の部分ですが、実際に業務中に被災された病気やけがなどをした経験については、15.2%の方が「はい」と回答されています。また、それらのうち病気やけがの内容は、骨折・ヒビ、切傷、腰痛、打撲が比較的高い割合を占めています。また、「いつ、けがをしたか」については、掃除中の場合が一番多いということで、次に、通勤の方が多いということから通勤時、それから調理中が挙げられています。
7ページです。特別加入の状況です。「保険事業年報」からの抜粋ですが、特定作業従事者の1つである「介護作業従事者及び家事支援従事者」として特別加入している方は、令和5年度で1,714人となっています。JILPTのアンケート調査によりますと、労災保険に特別加入されている方の割合は34.3%、3分の1強です。補償状況については右下の図のとおりとなっております。
8ページです。引き続き、アンケート調査の内容ですが、こちらでは労災保険に特別加入していない理由について聴取したものです。「民間保険に入っているから」という理由を選ばれている方が57%で、半分以上いらっしゃるということです。一方で、「制度について認識していなかった、知らなかった」という方は2割弱いらっしゃいます。実際に民間保険に加入されている方たちがどういった保険に加入されているかということですけれども、一般的に見られる傷害補償保険や医療費助成保険などに加入されている方が比較的多いということです。
9ページです。家事使用人に係る保険料の負担です。アンケート調査によると、特別加入の保険料は、一般的には個々の加入者の方が負担しているところですけれども、職業紹介所が負担していると認識していると回答された方が35.3%で、3分の1強になります。下半分の所ですが、家事使用人については、職業安定法とその施行規則により、有料職業紹介事業者、すなわち家政婦紹介所などですが、そこが求人者である私家庭から特別加入の保険料に当てる金銭を別途に徴収できることになっています。下の図のとおり、こうした保険料の徴収にあっては、こういう団体を活用することができます。
10ページです。御説明しました職業安定法と、その施行規則に係る条文を抜粋しております。資料の説明は以上ですが、この資料4に関して、水島委員から御意見をお預かりしておりますので、代読いたします。
「資料4の家事使用人について、現行法上、家事使用人は労基法の適用除外とされており、労災保険法の適用対象外です。今後の法改正により、家事使用人に労基法を適用することとなった場合、大変難しい問題ですが家庭が使用者としての責任を負うことになると考え、労働基準法における災害補償責任も労災保険法の事業主としての責任も負うことになると考えます。法的整理として、家庭が事業主の責任を負うとしても、現実には一般家庭が事業主としての責務を果たすことは難しいと考えます。
とは言え、それが労災保険の適用事業の事業主となることを免除することにはつながらず、労働者を雇用する以上、使用者ないし事業主であることを自覚し、その責任を認識し、責務を果たしていただくことが必要ですが、手続的、事務的側面の負担は可能であるならば軽減すべきと考えます。具体的には保険関係成立や変更の届け出、保険料の納付等の事務を代行する機関が存在し、そこに負わせることができれば事業主としての負担が軽減すると考えます」。代読は以上でございます。
○小畑座長 ありがとうございました。それでは資料4の1ページ目にある論点に沿いまして、意見をお伺いできればと思います。事務局からは論点①から論点②まで示されておりますが、論点①と論点②をまとめて議論したいと思います。各委員の御意見は、いかがでしょうか。では坂井委員、お願いします。
○坂井委員 ちょっと長くなりそうなので、まず、論点①のほうから発言させてもらいたいと思います。労働基準法ですけれども、全体としては事業への適用となっておりまして、言い換えれば、企業活動を想定した規制を行っているという言い方をしてもいいのかと思います。そうすると、やはり事業というのはなかなか難しいような、純然たる私家庭への適用には慎重であるべきだというように考えております。
これが労基法全体の取扱いに関してですけれども、他方で、災害補償に関する限りでの話ということになってきますと、この災害補償というのは指揮命令下の労働においては、その業務災害の発生ですとか、職業病の罹患に関するリスクを、主として使用者が管理できるのだということを前提にして、危険責任というものを1つの論拠としているのだというように説明されるのだろうと思います。
そうすると、この危険責任というような論拠自体は、私家庭に関しても、家事従事者への指揮命令というものが現にある場合には、その論拠というのは妥当するのだろうというように考えております。
したがいまして、労基法上の災害補償、そして、これを受けた労災保険の保険料の負担に関する責任に関しては、私家庭に、これを負わせるということも可能なのだろうというように考えております。
それを前提に、では労災保険のほうではどうなのかと、また論点①の話になってくるわけですけれども、その労災保険における事業主の責任のうち、危険責任の法理から演繹的に導かれるもの、もう少し具体的に表現しますと、労働災害に関する経済的な補償のために不可欠の責任というものについては、私家庭にこれを負わせることができるのではないかと。先ほど説明していただいた資料の4ページで言いますと、未納付の保険料、追徴金の納付ですとか、事業主からの費用徴収といったところが、そういった責任に当たるのではないかというように思います。
これに対して、事業主の責任の中でも、危険責任の法理から演繹的に導かれるとは言い難いような事業活動への適用、法適用を前提とした技術的な規定については、これは私家庭に負わせることは妥当ではないのではないかと考えております。
やはり、説明していただいた資料の4ページで言いますと、使用者の報告・出頭ですとか、立入検査というものが、そういった規定に当たって、これを私家庭に適用するのは妥当ではないのではないかと。また、保険関係の成立の届出等とか、概算保険料、確定保険料の申告・納付に関しては、これは確かに保険料納付のための手続ではありますけれども、やはり企業活動を想定した複雑な手続というような側面もあるのではないかというように思われ、私家庭については、より簡素化した仕組みの構築というものが目指されるべきではないかというように考えております。論点①に関しては以上になります。
○小畑座長 ありがとうございました。中益委員、お願いいたします。
○中益委員 中益でございます。私は、論点の1点目と2点目について、それぞれ1つずつ発言させていただきます。まず、1点目ですけれども、家事使用人が労災保険法の労働者となるとして、一つ懸念されるのは、事業主に当たるであろう主体の法律上の能力の点です。家事使用人が、例えば介護のニーズなどに応えている場合があると思うのですが、その場合、認知症等いろいろな意味での判断能力が低下した主体が、労働契約の相手方になる可能性が、ほかの種類の事業よりも、かなり高いのではないかと思います。
この点、意思能力さえあれば、労働契約は成立するだろうと思いますけれども、他方で、労災保険法は資料の4ページにあるように、事業主について各種の責任の履行や罰則の適用を予定しておりますし、労働保険事務組合に委託するにしても、少なくとも判断能力の劣る主体が活用するのは一定の困難があるかもしれないとも思いますので、適用の工夫が必要かと思います。先ほど、坂井委員から簡素化の話がありましたが、私も、そのような方向が必要かと思っております。
他方で、労働基準法上も使用者は指揮命令を行うわけですから、指揮命令を行えない程度の判断能力の場合、家事使用人としては労働契約のつもりだったものが、実際には指揮命令が行われず、そもそも労基法の労働者性の判断基準から見て労働者と認められないような事態も起こらないとは限らないように思います。
いずれにせよ、相手方に、どのレベルの法的能力があるのかを、家事使用人が判断するのは、なかなか難しいのではないかと想像しますので、仮に家事使用人を労災保険法の労働者とするならば、家事使用人と契約の相手側の双方を保護するという意味でも、後日の紛争を避けるような何らかのチェックの仕組みが要るのではないかと思っております。
一方、論点2点目ですけれども、家事使用人に労災保険法が適用される場合、事業主となる主体には、保険料負担や手続の履行など、いろいろなコストが掛かりますので、家事使用人を直接雇用するのを避ける動きが出てくる可能性はあり得ないではないと思います。
例えば3ページでいえば、請負の形にシフトすることもありそうですけれども、そのほかにも有償ボランティア、例えば海外でよく行われている住み込み型の、留学生に家事を手伝ってもらうようなオペアなどが使われる可能性もありそうです。
これに伴って、労働契約とのグレーゾーンが増えるのではないかと思いますが、私家庭が事業主となりますと、これを取り締まるのはなかなか難しいと想像しますので、後ほど暫定任意適用事業でも指摘されている問題、つまり業務災害が発生した場合にのみ手続を取るとか、業務災害が起こりそうな危険の高い所だけが、労災保険法の適用事業だと予め名乗りを上げるような逆選択の問題が出てきそうに思いますので、この辺りが難しさかなと考えております。以上です。
○小畑座長 ありがとうございました。それでは、酒井委員、お願いいたします。
○酒井委員 ありがとうございます。議論が深まってきているところで、そもそも論的な話で申し訳ないのですけれども、この問題の背景として先ほど事務局から説明があったように、かつては住み込みの家事使用人という者が主体であったけれども、近年では通いの家事使用人ということで、かつて家族同然で働いていた人たちが中心だったのが、今は変わってきているという話だったかと思います。
これ自体は、家事使用人の中での内訳が変わってきている話なのかなと思うのですけれども、そもそも家事使用人という働き方自体が増えてきているのかというところは、ちょっと知りたいところです。家事使用人という働き方自体が多くなってきているということならば分かる面もありますけれども、そもそも家事使用人自体がそれほど増えていない、あるいは減っているということであるならば、その論点というか、問題意識がどこにあるのかということを知りたいと思いました。
少しヒントになるかと思うのが、今回の御説明の資料で、JILPTの調査結果を紹介されていましたが、確か、同じ調査結果だったかと思いますけれども、家事使用人として働いている人たちは圧倒的に60代・70代の高齢者が多かったかと思います。そのことを考えると、長年働いているというような人が主体で、若い人が新たに増えてきているという話ではないのかなということを思っております。
先ほど中益委員からもありましたけれども、このような状況の中で、労災保険の様々な義務を私家庭に負わせることになると、ほかの形態、例えば家事代行サービスといったものに転換されるといったようなことが予想され、いろいろと複雑な手続を踏んで改正したとしても、結局こういった家事使用人という働き方自体を少なくしていくということにつながりかねないということをどのように考えるかというところも論点の1つかと思いました。
ただ一方で、では、こういった家事使用人に対する労災補償というものは必要ないと考えているかというと全くそうではなくて、先ほども申し上げたように、この家事使用人の人たちは70代が多いという事実に照らせば、むしろ他の年代以上に労災補償が重要になってくるのではないかと思います。それをどういう形でやるのかということに関して私から具体的な提案をできるわけではないのですが、そういった側面からも考えてみる必要があるかなと思いました。以上です。
○小畑座長 ありがとうございます。家事使用人が増えているかどうかは、次回にでもお答えいただけると有り難いと思います。よろしいでしょうか。
○労災管理課長 御指摘ありがとうございます。ちょっとデータとか、どのぐらいあるかは確認してみますけれども、今回、論点として設定させていただいたのは、正に御紹介したとおり、労働基準法のほうで動きがあったということです。実態のところについて、ちょっとどこまでデータが取れるかはあれなのですけれども、ちょっと確認してみたいと思います。
○小畑座長 ありがとうございます。では小西委員、お願いいたします。
○小西委員 私からは、ごく簡単な感想めいたところを、2つポイントでお話してまいりたいと思います。既に各委員からお話があったことと相当重なっています。まず1つ目が、今日、今、お配りしていただきました資料4の3ページの図に書いてある、この区分けの点に関して、法的構成に関してです。
その関係図、4つ上から並んでいますけれども、2つ目と4つ目が2者間の関係ということで、ここでは一方が、上から2段目のほうが雇用契約で、指揮命令関係というように書いてあって、下のほうは請負契約、そのように記載されているところでありますが、既に御指摘があったように、これらが請負か雇用関係があるのかどうかというようなところの判断が非常に難しい、普通の企業でも難しいところなのだけれども、そういったことが、私家庭で十分な判断、適切に判断ができるのかと、そのような問題があるかと思います。
併せて、上から1つ目と上から3つ目は、三者間の関係ということになりますけれども、ここでも3者間の関係において、私家庭と家事従事者との関係は、どのように整理できるのか、その点の判断が、これは一般的な三者関係でも言えることで同じなのですけれども、その判断が難しく、その判断が難しい中に、私家庭が入ってくるという点が一つのポイントになるのかなというように思いました。
続いて、2つ目ですけれども、これも既にお話があったところですが、資料の2ページのところにも関係してきます、労働基準法上の労働者性の中でも、事業性に関連するというところでございます。その適用除外の規定、労働基準法第116条の規定が仮になくなったとしても、第9条の規定が掛かってくるということになってきて、事業性というのが問題になってくるところかなと思います。
そうした場合に、私家庭の場合において事業性が認められるのかどうか、この辺りは労働基準法の審議、議論のほうが主になるのかなというふうに思いますけれども、事業性が認められるのかどうか、認められないケースも相当程度、考えられるかなと個人的には、私はそういう印象を持っているところなのですが、その辺りが一体どういうふうに整理するのか。事業者というように言えると、事業性を認めるということになると、他の法律との関係において、そのような整理が、他の法律にどのような波及効果を与えるのかというようなことも気になるというところです。
このような形で2点申し上げまして、いろいろな難しい問題があるところではありますが、個人的には家事使用人の人に対して、労災保険制度の適用というのは、積極的にというか、適用に向けた検討をしていくことが、一定程度望ましいかなというように思っております。
現在は労働基準法上の扱いの適用除外ということにされていることもあるのかもしれませんが、家事使用人の働き方、実態というのが、なかなか十分に見えてこない印象を持っているところです。家事使用人の働き、就労というものをしっかり保護していくというような観点からすれば、労災保険とか、労働安全衛生とかも含めてですけれども、その適用ということについても考えていくということがあり得るところなのかなというように思います。
今後、こういった家事使用人的な働き方が、マッチングサービスの発展とか、場合によっては外国人労働というようなことも考えられていくかもしれませんが、そういうところで今後は増えてくることも考えられる中で、より労災保険という仕組みの中でも、見える化していくような方向が考えられるのかというように思っています。
具体的な仕組みということになってくると難しいところになってくるかなと思います。事業主ということがなかなか言えない場合に、では一体どうするのかと、みなし事業というようなことも考えられるのかどうか。あと、労働保険事務組合という参考資料も付けていただきましたが、それに類似の仕組みが使えるのかどうかとか、あとは家事使用人の就労の実態が日雇のようなものであれば、そのようなところをどのように考えていくのか、どういう仕組みが考えられるのかというような次の段階、なかなか難しいところではありますが、そのようなことに向けて検討していくことも十分あり得るかなというように考えている次第です。私からは以上です。
○小畑座長 ありがとうございました。ほかは、ございますか。地神委員、お願いいたします。
○地神委員 論点②について、「仮に」ということではありますけれども、労働保険等を強制適用する場合、ここの前提として、労働基準法は適用があるということを想定して発言いたしますけれども、やはり、この資料で言いますと、3ページにありますものの類型のうち上から2つ目、3つ目について、労働基準法、それから労災保険法のいずれも適用されることになるといった場合に、取り分け私家庭と直接契約をするような類型において、この把握が非常に難しいことは、まず間違いないかと思います。労働基準法のほうで履行確保をどうするのかという問題があり、これは極めて現実的に難しい問題だと思っております。
その際に、労働基準法が適用されるということになると、災害補償に係る規定もそれぞれ適用され、もし、これがちゃんと保険に入っていなければ、災害補償の民事訴訟で争われるケースがあるというようなことを周知するというようなことによって、適用漏れというものを減らしていくと、そのような方策も現実的にはあろうかなというようなことを少し思いました。
そして、上から3つ目の類型において、紹介所等が入っているというような場合もありますけれども、このような場合に、紹介所に一定の手続促進のための義務、ないしは努力義務というものを課して、加入を促進するというと、強制加入なので少し変な感じがしますけれども、履行性確保を図るということもあってよいかなと思っております。以上です。
○小畑座長 ありがとうございました。ほかは、ございますか。よろしいでしょうか。坂井委員、お願いいたします。
○坂井委員 論点②の制度設計の留意点に関して2点ほど発言させていただきたいと思います。1点目は、先ほどの論点①の労基法上の災害補償の責任を、私家庭についても肯定し、それを受けて労災保険に関しても一定の責任を負ってもらうという場合には、やはり事務負担の軽減というのは非常に大事になってくるのだろうと思います。
この点は、先ほどの中益委員、あるいは酒井委員の御発言と大分、問題意識や内容が重なるのですけれども、私もちょっと気になっていたところですので、一言触れさせていただきます。私家庭が直接、家政婦さんを雇用するというような場合に、その労災保険を適用して一定の事務負担を求めるということになってくると、利用者にそのような負担が生じない事業者が提供する家事代行サービスとの関係で、直接契約を結ぶ類型で働いている人たちのほうが、著しく不利益な立場に置かれるのではないかと。もう少し平たく言いますと、家政婦さんに来てもらうと、えらい面倒臭いらしいから、これからは業者さんにお願いしようというような事態が生じないかというところは懸念しているところであります。そういった観点からも、やはり家庭の負担だけではなくて、働いている人との関係でも、事務負担の軽減については十分な配慮が求められるのではないかと考えているところです。
もう一点ですけれども、先ほど小西委員から御指摘がありましたが、労基法との関係では、労基法の適用を認めない、災害補償責任も認めないというふうな考え方も、他方であり得るのではないかというような御指摘に関連するところですけれども、そのような立場を前提としますと、問題状況、問題の構造としては、むしろ今の特別加入のような状態に近付いてくるのかなと考えております。要するに、労基法上の災害補償とは結び付いていない労災保険の適用をしていくのだと。特別加入のような任意加入ではなくて、当然適用、強制適用をしていくという形ではありますが、特別加入と類似の構図を持っているのかなというような印象を持っているところです。
そういう場合には、むしろ、現行の特別加入の仕組み、すなわち業界団体を事業主と擬制して、それを基に制度を組み立てていくというような視点なども、一つあり得るのではないかと感じているところであります。私からは以上です。
○小畑座長 ありがとうございます。笠木委員、お願いいたします。
○笠木委員 ありがとうございます。既に発言があった内容と重なる部分が多いのですが簡潔に申し上げます。家内労働者については、労基法が適用された場合には、労災保険の適用に当たって既に指摘されているとおり、様々な問題がある一方で、事故の危険性も高く、労災補償を行う必要性自体は高い人たちなのだと理解しております。
他方で、これも既に御指摘が出ておりますように、私も、実際に、その一般家庭と家事使用人が直接契約するという形での働き方が今の日本において実態として、どの程度、重要な現象であるのか。また、労基法、労災法を適用するといったときに、どの程度その状況を国が把握して、現に法適用を行えるのかというところが一番気になっているところです。
そもそも今日の問題提起が、労基法の適用をめぐる議論を受けたものになっていると思われますので、労基法を適用していく場合に私家庭に対する国の監督が、どのように行われていくのかといった点とも平仄を合わせながら議論をしていくという必要があるのかなと考えております。
また、先ほど中野委員から、注意喚起がありましたように、特別加入について、実はできること自体を知らないということで、入っていない人が結構いるようでもあります。労基法に係る議論の動きを見守りつつも、今のところ、加入を希望する方については特別加入を今まで以上に促していくといったことが、同時に必要だと考えております。以上です。
○小畑座長 ありがとうございました。ほかは御意見はございませんね。ありがとうございます。今、御指摘ございましたけれども、こちらの議論、労基法上の労働者の議論に接続しております。そちらはどうなのかということを睨みながらのお話となるかと思いますが、然は然りながら、労災保険制度の中で、ケアをしていく必要性が高い人がいるのではないか。しかし、家事使用人というのが労基法の適用除外ということで、データがかなり少ないのではないかと思われるわけですが、何とか、その実態が分かるとすれば、その実態を見ながら、様々な労災保険法を適用するとした場合に、どのような問題が起こり得るかということについて、随分いろいろな御指摘がございましたので、その辺りを精査していく必要があるというように考えます。さらに、何か御意見等ございませんか。大丈夫でしょうか。事務局のほうでも整理をお願いしたいと思います。それでは、もう1つ、最後の論点になるかと思いますが、事務局のほうから御説明をお願いいたします。
○労災管理課長補佐(企画担当) 御説明します。資料5です、おめくりください。暫定任意適用事業をめぐる論点についてです。こちらは現行の暫定任意適用となっている農林水産業の事業についても強制適用とすべきかというところを論点としております。
2ページです。暫定任意適用事業の概要です。御案内のとおり、労災保険は、労働者を使用する全ての事業に適用されるところですが、この強制適用の例外として、暫定任意適用事業があるところです。この概要にありますが、農業、林業、水産業それぞれ若干、要件は異なっておりますが、かい摘んで申し上げれば、非常に小規模な個人経営の事業体というように考えていただければよいかと思います。ただし、労働者の過半数が加入を希望する場合は、強制適用となります。
下のほうですが、こちらは法律上の構造です。労災保険法の中では3条で、全面適用の考え方が謳われているところです。暫定任意適用に関する直接の規定に関しては、昭和44年の改正法の中の附則に規定が置かれております。具体的な対象範囲については政令に下りており、ここで主な対象事業として規定がなされております。また告示の中で、この任意適用事業の例外として、危険な業務については強制適用とするといったことを規定しております。こうした複層的な構造になっておりますので、どういった範囲で見直しを行うか、この改正内容に応じて、実際にどのレベルの法令改正するのかといったことは異なってまいります。
3ページです。暫定任意適用事業に係る特例です。一般に保険は、いざというときに備えて事前に入っておくのが原則ですが、この暫定任意適用に関しては、保険関係が成立する前に発生した業務災害であっても、事業主の申請によって、後から保険給付を行うことが可能になっております。こうした特殊な取扱いをしている背景については、薄水色の部分に記載しておりますが、一般的な労災保険法の対象となる労働者との均衡などを考慮された措置となっております。ただし、留意すべき点といたしまして、被災労働者が療養を経ずに死亡した場合、即ち即死された場合には対象となりませんし、また、こうした特殊な状況においても一般の保険料だけでカバーするといった公平性の問題もありますので、事業主の方は所定の期間、特別保険料を納付するといった義務が生じてまいります。
4、5ページに関しては参照条文を抜粋しております。6ページは、暫定任意適用事業に係る改正経緯です。労災保険法は、発足当時は、強制適用と任意適用といったものを法律等の中で書き分けていたのですが、昭和35年の法改正により、長期給付、年金の概念が入ってきたことで、労災保険法の適用対象となるかどうかで補償の水準が違ってくるといったことが課題となり、そこから全面適用の気運が高まってきたと言われております。こちらを見ていきますと、昭和43年以降、縷々適用範囲が拡大されているところで、平成3年の法改正の際に、現行の形となっているものです。
7ページです。こうした暫定任意適用事業が存置されている理由です。平成3年の制度改正時の施行通知ですが、ここは、あくまで農業に関する記載です。端的に申し上げますと、農業独自の労働環境、これは集落全体で作業に当たることにより、労働者か使用者かといった見分けがつきにくい、繁忙期のみに人を使っているといった特殊な事情があるといったことが理由として挙げられております。
8ページです。昭和63年に取りまとめられた、有識者の先生方による研究会の報告です。こちらは農林水産業一般についてですが、小規模な事業体が多く、広い地域に散在しており把握が難しい、あるいは災害は多発していないといった事情が述べられているところです。40年たった今日、こういった状況がどこまで妥当しているかといったことが1つの論点かと思われます。
9ページです。こちらは、自発的に任意適用されている事業体に関して、令和3年度から令和5年度までの3か年度において、実際に支給決定された重大事故、こちらでは遺族(補償)等給付、それから障害(補償)等給付のうち年金給付を便宜上選定しております。御覧いただくと、総計21件となっております。件数だけで見ますと、多くないとみる向きもあるかもしれませんが、申し上げましたように、こちらは自発的に任意適用されている事業体ですので、労働災害や災害防止に関するリテラシーが一定程度高い方たちであると考えられることは割り引く必要があるかと思います。
資料については以上ですが、資料5に関しまして、水島委員から御意見を頂いておりますので代読いたします。
「資料5の、現在、暫定任意適用事業となっている農林水産業の事業ですが、私は強制適用すべきと考えます。労働実態の把握が困難であることが理由とされてきました。「ゆい・手間替え」は、現在もあるのかもしれませんが、立場の曖昧性が強制適用不要の理由にならないと考えますし、暫定任意適用事業にこれまで強制適用されなかった背景には近所の助け合いという労力の相互融通の習慣があったとも考えられます。労働実態は少しずつかもしれませんが、現代的になっているはずであり、把握の手段も多様化していると考えます。確かに、件数は多くないかもしれませんが、暫定任意適用事業における重大事故が散見され、その中には若い方が重い障害を負ったケースもあり、保護の必要性があるといえます。
なお、農林水産業の事業を強制適用する場合、先ほど家事使用人の所で述べたように、手続的、事務的側面の負担を軽減するための仕組みを整備することが望ましいと考えます」。代読は以上です。
○小畑座長 ありがとうございました。それでは、資料5の1ページにある論点に沿いまして、御意見をお伺いできればと思います。御意見はございますか。中益委員、お願いいたします。
○中益委員 中益です。私も水島委員と同じで、農林水産業に関しては、強制適用のほうがよいのではないかと考えております。まず、労働基準法上は、農林水産業を含めて適用事業となりますので、農林水産業であったとしても、労働者を見分けられるという前提に立っていると思います。にもかかわらず、労災保険法が労働者かどうかを見分けられないとの前提に立つとすれば、一貫性が取れないのではないかという印象があります。
また、ほかの国では農林水産業は賃金支払いの点で他事業とは異なる特徴があるとみて、みなし保険料の仕組みなどが取られる例があるかと思いますが、日本ではこの事業についても最低賃金法が適用されますので、この点でも、ほかの事業と同じだという前提に立っているように思います。
他方で、資料8ページに指摘されているように、それでも、なお逆選択の問題があるということかと思いますが、労働者の過半数が労災保険の加入を希望する場合や、法人なりした場合には強制適用となること。また、平成3年改正により、事業主が農業について特別加入している事業も強制適用事業となることからすると、逆選択の弊害は、農林水産業に関しては、ある程度甘受されているようにも見えます。こうしたことから見ますと、全体的には、やはり農林水産業についても強制適用としていく方向で考えられるのではないかと思っております。以上です。
○小畑座長 ありがとうございます。ほかに、いかがですか。今、農林水産業の事業でも強制適用すべきという御意見が2つ出てまいりました。ほかに御意見はございますか。では、坂井委員、お願いいたします。
○坂井委員 農業分野の労働実態に関わるところで、私としてもまだ十分な知識を持ち合わせていなくて、私は、断定的にこうすべきだという方向までは見出せていないのですが、主として課題の指摘という形で発言させていただきます。基本的には、今まで意見が出てきたとおり、農業従事者の保護という観点からも、あるいは事業主の保険利益という観点からも、全面適用の意義としては当然、当たり前ですが大きいだろうと考えております。
他方で、資料7ページに記載されていますが、先ほど説明していただいた全面適用の困難性という部分に表われている農業の特性を見ると、確かに全面適用には障害もあるのだというような印象も持っております。この点、同じ7ページの中で、強制適用の話ではなくて、特別加入との関係で農業協同組合の役割への言及というものがありますが、この辺りは興味を引いたところで、強制適用とした場合にも、農業協同組合の協力、その他の手法を活用することによって、保険者においては適用事業の把握が困難であるとか、やはり事業主においては事務負担が大変であるといったことなどの問題や障害を解決する余地があるのかと。農業協同組合の協力という枠組を使うことによって、そういった問題を解決、解消する可能性がどれほどあるのかというところについては、検証の余地があるのかなというような印象を持ったところです。私からは以上です。
○小畑座長 ありがとうございます。ほかには、いかがですか。特にございませんか。今、まとめますと、強制適用すべきという御発言が続いておりましたが、するという場合の課題、障害となるものは資料の御説明の中でも出てきたところで、その辺りについての検討が必要ということかと思います。更に追加の御意見等はございますか。よろしいですか。ありがとうございます。
それでは、事務局において整理していただき、また進めていただければと思っております。では、事務局にマイクをお返しいたします。次回の日程などについて、よろしくお願いいたします。
○労災管理課長補佐(企画担当) 次回の日程に関しましては調整の上、また改めて御連絡いたします。
○小畑座長 ありがとうございました。少し延長してしまい、失礼いたしました。これにて「第4回労災保険制度の在り方に関する研究会」を終了いたします。本日はお忙しい中、誠にありがとうございました。